研究課題/領域番号 |
18K12782
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
中村 由依 福岡大学, 経済学部, 准教授 (70465714)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 教育政策 / 貧困削減 / 所得格差 / 学習環境 |
研究実績の概要 |
本研究では、発展途上国の貧困削減に効果的な教育政策の理論分析を行っている。最適な教育政策を分析する際に、多くの先行研究では、効率性を重視する功利主義的な政府が採用するベンサム型社会厚生関数を想定し、教育効果が効率的に発揮されるインプット逆進的な公教育政策(高度な教育の重点化など教育成果の高い人々への公的支援)が、インプット累進的な公教育政策(基礎教育の重点化など教育成果の低い人々への公的支援)より社会厚生を高めるため望ましいと結論づけている。 一方、発展途上国の貧困層は、高度な教育を受けてこなかった両親が、子どもの教育に関心を示していなかったり、両親が貧困であるため、児童労働や栄養失調が存在したりなどが原因で学習環境が整わないために、高度な教育を受けられないことが多い。よって、インプット逆進的公教育政策では貧困削減に大きな効果が見られないばかりか、高度な教育を受けられる人々と受けられない人々の間で所得格差が拡大するという問題が発生する。 以上のような背景のもと、本研究ではベンサム型社会厚生関数の想定下でもインプット累進的な公教育システムが最適になるような政策が実現する状況を理論的に裏付けし、貧困削減や所得格差の是正、さらに、社会厚生の最大化を同時に実現できるような可能性を示唆した。具体的には、政策により個人が学習環境を整えることで、功利主義な政府のもとでもインプット累進的な公教育政策が促され、高度な教育を受けることができない貧困層の所得を上昇させることが可能となるメカニズムが明らかになった。 本研究の結果は、政府がどのような立場であっても、教育政策によって貧困削減や所得格差の是正を実現できる条件とメカニズムを示すと同時に、貧困層の教育を受けるモチベーションを高めることに貢献している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最適教育政策を理論分析している先行研究では、功利主義的政府を想定の下、インプット逆進的、すなわち、エリート教育が最も社会厚生を高めるため最適教育システムであるという結論が多い中、政府のタイプに関わらず、基礎教育の重点化が最適な教育制度となりうる条件を理論的に明らかにしたり、貧困層の教育を受けるモチベーション高める要素を示したりするなど、独自性のある研究を進めることができているため。 また、この結果は、「Indirect Policies for Poverty Alleviation through Education Systems in Developing Countries」というタイトルで、福岡大学経済学部が発行するワーキングペーパーにおいて発表された。さらに、本論文は、2018年12月に行われた国際学会「The 18th Science Council of Asia Conference」での報告や、そこでの議論をもとに改定中である。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度に執筆した論文「Indirect Policies for Poverty Alleviation through Education Systems in Developing Countries」を、2019年6月に開催される日本経済学会春季大会、2019年10月に開催されるXXth International Conference on Business, Economics, Law, Language & Psychologyなど、国内外の学会で報告し、繰り返し議論しながら改定し、最終的には国際雑誌に投稿する予定である。 本理論研究は、個人の教育環境を整えることで、公平性を重んじる政府のみならず、効率性を重んじる政府においても、基礎教育に重点をおくインプット累進的な教育政策が社会厚生を最大化するため採用される可能性を示唆したものである。 今後は、1.上記の可能性に関して、発展途上国と先進国の間でどのくらいの差異が生じるのか、2.インプット逆進的な教育政策を施行している国家が、インプット累進的な教育制度を採用するように方向転換することで貧困削減は推進されるものの、この変化がどのくらい経済成長に影響を与えていくのか、3.個人の教育環境の整備が、貧困層の教育を受けるモチベーションにどのくらい影響を与えるのか、という3点に着目して理論研究を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定より、旅費の出費が少なかったため研究費の次年度使用額が生じた。次年度では、主に本年度に執筆した論文を改定していくために、国内外の学会で論文報告や議論を行うための旅費や、改定した論文の英文校正費に研究費を使用していく予定である。
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