本研究課題では金融摩擦のような地域の市場に存する摩擦は,家計や企業の立地選択にどのような影響を及ぼし,都市の生産性や企業の集積にどういった含意を持つのか明らかにしようとしている. 本年度は2つの研究成果をワーキング・ペーパーとして公表した.いずれも査読付き学術雑誌に投稿している段階である. ひとつは,地方自治体間の戦略的な摩擦に関する研究である.研究者にとって直接観察することのできない地域特性があることを前提に,限られた観測から評価を行うことができる定量的な都市経済モデルを構築した.固定資産税率がどのように決定されるのか,税の制度設計による違いに注目し,税率や経済厚生上の含意を整理した.日本は地方分権的な制度に実態としては近く,実効税率の地域間格差を減らすように制度改革すると経済厚生が改善できることを発見した. ふたつ目に,金融仲介機関と企業の与信関係が企業のレジリエンスにどう影響するかマイクロデータを用いて整理すること,について研究を進めた.金融仲介機関と企業との地理的な距離は,新型コロナウィルス感染症というショックに対して,ショックが到来したときよりもショックから立ち直っていく段階において重要であることを発見した.「ウィズ・コロナ」という新しい環境に適応する上では,事業計画の練り直しや販路開拓など,メインバンクの提供するコンサルテーションが重要であった可能性を示唆している. また,金融摩擦のある集積の理論的枠組を構築する研究も進めていた.しかし,補助事業期間内に目立った成果を残すことはできなかった.今後の課題としたい.
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