研究課題/領域番号 |
18K12788
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研究機関 | 独立行政法人経済産業研究所 |
研究代表者 |
荒田 禎之 独立行政法人経済産業研究所, 研究グループ, 研究員 (40756764)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 連鎖倒産 / ネットワーク |
研究実績の概要 |
本研究の目的は企業間取引ネットワークと倒産情報を組み合わせたデータの統計解析を行うことであり、計算時間短縮のためスパコン上でこの解析を実行する必要がある。平成30年度は当初計画の通り、プログラムをC++とMPIを用いて実装し、スパコン京上で実際に動作することを確認した。このプログラム自体にはまだ効率化のための改善の余地が多くあるが、このプログラムを実際の東京商工リサーチのデータに適用し、取引ネットワーク上の連鎖倒産の発生確率について分析を進めた。その結果、取引先の倒産は企業の倒産確率を統計的に有意に上昇させることを実証的に確認した。しかしその一方で、連鎖倒産が経済全体に広がり、マクロ経済として甚大な影響をもたらすというようなことは生じえないということも発見した。つまり、連鎖倒産はあくまで小規模なものにとどまり、倒産が次から次へと発生する大規模な連鎖倒産は生じないということである。あくまで暫定的ではあるが、以上の実証結果を"Bankruptcy propagation on a customer-supplier network: An empirical analysis in Japan"としてディスカッションペーパーとしてまとめた。またこれらの結果を以下の3つの国際学会(WEFIA, EARIE, CEF)で発表した。 また、平成30年度に進めてきた手法は大規模データの統計解析であるが、ここで培ってきた手法がこれまで自身が取り組んできた企業成長に関する分析にも適用できることが分かり、実際に適用した。それらの結果は"Firm growth and Laplace distribution: The importance of large jumps"として学術雑誌Journal of Economic Dynamics and Controlに出版されることが決まった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、平成30年度はスパコン上での統計解析のためのプログラムの実装に取り組んだ。C++による統計分析の実装、さらにMPIを用いてのプログラムの並列化を行い、スパコン京上で実際に動作するプログラムを開発することが出来た。さらに、実際にこのプログラムを東京商工リサーチの企業間取引ネットワークデータと倒産情報に適用し、取引ネットワーク上の連鎖倒産の発生確率について実証分析を進めた。あくまで暫定的なものであり今後さらに効率化のために改善する必要があるが、プログラムを適用して得られた実証結果を経済産業所のディスカッションペーパーとして論文の形にまとめることができ、加えて当初計画した通り3つの国際学会(WEFIA, EARIE, CEF)で発表を行うことが出来たので、本研究は計画通りおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度において、取引先の倒産による企業の倒産確率の上昇を推定するプログラムは開発したものの、まだ非効率な部分が多く、改善する必要がある。 さらに研究を進める中で、取引先の倒産による企業の倒産確率の上昇という局所的な性質と、連鎖倒産のマクロ経済全体への伝播という大域的性質は峻別する必要があるという認識に至った。特に、マクロ経済全体へ悪影響をもたらす大規模な連鎖倒産はネットワークの構造と密接に関連しており、「取引先の倒産による企業の倒産確率の上昇」の推定のみならず、実際に観察される取引ネットワーク自体の詳細な分析が必要であり、また学術的にも意義が大きいと認識するにいたった。このネットワークの構造に関する分析は、平成30年度中からワークステーション上で統計解析言語の「R」を用いて始めており、今後もさらに進めていく予定である。 以上の作業を平成31年度中に完了させることによって、プログラムのホームページ上での公開と論文の学術雑誌への投稿を、平成31年度中に行うことを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度に参加した国際学会の一つ(Workshop on Economic Science with Heterogeneous Interacting Agents)が東京での開催であったため旅費が不要となり、結果、当初予定していた旅費よりも実際の使用額は小さいものとなった。 平成31年度も海外への出張(大学でのセミナー・学会発表)を予定しており、平成30年度から繰り越した部分についても旅費として使用する予定である。
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