研究課題/領域番号 |
18K12793
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
横山 泉 一橋大学, 国際・公共政策大学院, 教授 (30712236)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 景気への賃金感応度 / 不況時の賃金格差 / コロナ禍による賃金動向 / コロナ禍での雇用動向 |
研究実績の概要 |
本研究の最終目標は、労働者のインセンティブ体系としての適切な賃金決定に関する現状を把握し問題点を発見することにあり、給与体系により労働者の生産性を上げるための最適企業戦略を提言することである。平成30年度はまず賃金決定に関する現状を把握するため、賃金構造基本統計調査を用いた実証分析を行った。その分析の中では、解雇確率の上昇が起こった1997年以後、景気に対する賃金感応度にどのような変化が起こったのかを検証した。検証の結果、1997年の解雇拡大の影響を受けやすいような、非正規雇用者が多く含まれる低所得者の賃金は1997年を境に反景気循環的となった一方で、比較的雇用の安定している高所得者に関しては、景気に対する賃金感応度は変わらないことが明らかとなった。この発見は、1997年を境に一般的な不況期の格差拡大は緩和される方向に変化するということを示唆する。それを確認するために、DiNardo, Fortin, and Lemieux (1996)のDFL分解を用いて、1997年以前の雇用慣行がリーマンショック時にも続いていたとしたら賃金分布がどうなっていたかを表す仮想現実的な賃金分布を構築した。その結果、「低所得層の賃金は1997年の雇用変化が起こらなければ実際よりも下がっていた」ということが示された。この発見は1997年の雇用慣行の変化が、不況期の賃金格差の緩和に貢献したことを意味している。上記の研究は、"Inequality through Wage Response to the Business Cycle; Evidence from the FFL Decomposition Method," 2019, Journal of the Japanese and International Economies, 51, pp. 87-98として、海外学術雑誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は令和4年までの計画であったが、全世代型社会保障構築会議の有識者となり、岸田総理の出席する審議会やその準備にかなりの時間をとられた。さらに、研究者(研究代表者、共著者)のその他の業務の多忙、親族の介護、子の養育、病気によるものにより1年間の延長を申請して承認された。令和4年以降これらの理由は解消されたため、今後の推進には影響はない。また、コロナ禍での状況変化を踏まえた研究成果が予想以上に蓄積されたことから、当初の計画にはなかったが、本議論と関連する研究も進展してきているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は最終年度になるため、本研究の最終目標である問題点の取りまとめ(労働者のインセンティブ体系としての適切な賃金決定に関する現状と問題点の提示)および、給与体系により労働者の生産性を上げるための最適企業戦略を提言することを目指す。もちろん、コロナ禍前後で賃金にも変化が生じたことは事実である。さらに、岸田総理の全世代型社会保障構築会議で目下の問題となっている、「勤労者皆保険」に関しても、被保険者拡大に伴って様々な可能性を検討する必要がある。これらの要因も、賃金と密接に関わっていることを考慮して、賃金分布と労働供給に関する新たな発見を探るべく、すでに新たなプロジェクトを開始している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は令和4年までの計画であったが、全世代型社会保障構築会議の有識者となり、岸田総理の出席する審議会やその準備にかなりの時間をとられた。さらに、研究者(研究代表者、共著者)のその他の業務の多忙、親族の介護、子の養育、病気によるものにより1年間の延長を申請して承認された。上記の理由により、もっと早くに終わらせて英文校正に出していたはずの複数の論文がまだ執筆途中であるなど、研究計画全体に遅延が生じたことに伴い、令和5年度繰り越し(延長)金額(450,000円)が生じた。繰越・次年度使用・期間延長を、上記理由によりすでに申請・承認済みである。
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