政治学では投票率は高いほど望ましいという考えが一般的である。投票率は民主的正統性を示す指標だからである。しかし経済学の分野では肯定的評価もあれば、否定的評価もあり、評価が定まっていないのが実情である。本研究は、こうした研究状況の間隙を埋めるために、日本の地方選挙を対象に「投票率が高い自治体ほど、財政効率化のための外部委託が進捗している」という仮説を検証し、投票率を経済的側面から評価する分析を行った。 この分析では、投票率を、有権者による政治家の監視の度合いを示す指標として位置づけている。仮に外部委託率と投票率の間に統計的に有意な正の関係があれば、ベルギーやドイツの地方政府を対象にした研究と同様に、効率性の側面からは、投票率は高いほうが望ましいと指摘できる。 都市自治体を対象に、市長選挙と市議会選挙の投票率を対象に分析を行ったところ、いずれの選挙においても、投票参加する有権者が多い都市ほど、外部委託の導入率が進んでいるという傾向は確認できなかった。つまり、効率的な行財政運営をするには、多くの有権者が投票に参加して、監視や圧力の度合いを強める必要があるというわけではなく、(効率性の視点からは)「投票率は高いほうが望ましい」という含意は得られなかった。 今後の研究の展開としては、地方自治体の実施する定型業務に焦点をあてて投票率との関係を検証すること、またその際に投票が行われる選挙だけでなく、二元代表制の政策決定過程における市長と議員の行動インセンティブも考慮したうえで、実証分析を行うことが考えられる。
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