次の2つの研究を行った。1つ目は、家計の出生行動を考慮した、寿命の増加に伴う高齢化と政府の教育・年金支出に関する研究である。この研究は、過年度から継続して行っているものであり、今年度は理論的予測とデータの整合性について検討を行った。具体的には、理論分析の結果から、寿命が高い国ほど、出生率および政府の教育支出は低く、政府の年金支出および経済成長率は高い傾向となることが予測される。この理論的予測をOECD11か国のデータと比較したところ、出生率、政府の教育・年金支出については両者が整合的であることが確認された。経済成長率については、寿命が時間を通じて一定であるという仮定のもとでは理論的予測とデータに乖離があるものの、寿命が時間を通じて一定でないという修正された仮定のもとでは、両者が整合的になることが分かった。 2つ目は、高等教育における借り入れ制約の研究である。本研究の特徴は、教育段階別の教育支出を考慮し、借り入れ制約が原因となり個人が十分に高等教育に支出できない状況における、投票を通じた政策決定を分析することにある。分析の結果、日本において借り入れ制約が緩和されると、初等・中等教育への政府支出は上昇する一方、高等教育への政府支出および政府の年金支出は低下することが分かった。また、アメリカについて、基本的な結果は日本と同様であるが、借り入れ制約の程度と初等・中等教育への政府支出は逆U字の関係となることが明らかになった。
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