2019年度においては,本研究課題を行うための予備的研究として(1)を,また課題に直接関わる研究として(2)を並行してすすめた。 (1)2019年11月に上海・華東師範大学において,「従糧食問題来分析農業合作化的加速現象―以1950年代中期為中心―」(食糧問題から分析した農業集団化の加速現象:1950年代半ばを中心に)と題する学会報告を行った。これをもとに執筆した論文「中華人民共和国初期の食糧統制――農業集団化との関連に注目して」が,『農業史研究』第54号(2020年3月)に掲載された。この論文は,中国共産党による農村の土地把握が,従来考えられているよりも粗放的であったこと,そのため食糧統制も不徹底なものにならざるを得なかったこと,そしてこのことが逆説的に農民の農業集団化への参加を積極的に促したことを指摘した。本論文では,上からの圧力により無理矢理集団化に巻き込まれる農民像ではなく,自らの利益の確保のために主体的に行動する農民像を描きだすため,農民の主観的な状況判断や行動選択の過程に着目した。本研究課題は,1970年代に集団農業が解体していくなかで,農民の主体的な判断・行動とはどのようなものだったのかを検討することが目的であるが,それに対してこの論文は,1950年代の集団農業の形成期における農民の価値判断に着目したものだと言える。 (2)2019年8月に華東師範大学において,「毛時代晩期的農村経済変化―以糧食流通為中心―」(毛沢東時代末期の農村経済の変化:食糧流通を中心として)と題する学会報告を行った。これをもとに「1970年代中国における食糧統制の弛緩と農村経済の変容」と題する論文を執筆した。この論文は来年度以降,田島俊雄氏(東京大学名誉教授)が編纂する論文集に収録される予定であるため,ここでの内容紹介は割愛する(出版社等は未定)。
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