研究課題/領域番号 |
18K12824
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
森本 真世 東京大学, 社会科学研究所, 講師 (20782311)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 推薦採用 / 熟練 / 炭鉱 / 規律性と勤勉性 |
研究実績の概要 |
<資料整理>本研究の要となるのは、麻生家文書(九州大学附属図書館記録資料館・産業経済資料部門所蔵)の「勤怠表」と呼ばれる、労働者の出勤管理簿のデータベース化である。2018年度においては、当該資料の整理が可能な大学院生に、のべ約90時間従事して頂き、追加的に4ヶ月分のデータベース化が完成した。追加的に2000人余りの労働者勤怠状況が判明したことになる。炭鉱においては、納屋と呼ばれた間接管理組織によって労働者の勤怠管理がなされており、それぞれの納屋「頭」に、管理権限が委譲されていた。追加的な「勤怠表」の分析によって、納屋組織の統合および分離が多くあったことが観察された。さらに、統計的な分析によって、(1)実質出勤率:男性>女性、家族同時就労者のほうが高い、年齢が上がると少し下がる、(2)勤続期間:男性>女性、家族同時就労者のほうが長い、(3)退職:男性のほうが辞めない、家族同時就労者のほうが辞めない、ことを明らかにした。 この他の主な活動としては、<経営史学会東北ワークショップ(於 東北大学)における研究報告>、<九州大学への「麻生家文書」資料調査>、<論文の執筆および投稿>がある。3本の論文を査読付き学術雑誌に投稿中であり、また、所属する東京大学社会科学研究所の全所的プロジェクトである、「危機対応学」において刊行予定(2019年度)である『危機対応の社会科学』に、「危機対応と共有信念-明治期における鉱山技師 石渡信太郎を事例として」と題する論文を執筆した。これには、直面する危機に適切に対処するには、構成員の間で相互の行動に関する確率的予想が整合的であることが重要となることを論じ、この点について20世紀前半の炭鉱の鉱山技師であった石渡信太郎の事故対応および石渡と鉱夫との関係を事例に考察している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定より、資料整理要員を確保できていないが、資料整理は進んでおり、おおむね順調と言える。資料分析により、本研究の大きな目的である、推薦採用による効果をはかる、つまり、推薦者を通した採用か、人事部による採用かで、入職後の成績がいかに変わるかを推定することができる。本研究の場合における入職後の成績は、先ず第一に勤怠状況であるが、史料分析が進むことによって、現時点では、直接採用のほうが、勤続する傾向にあるが、推薦採用の方が出勤率は高い傾向にあることを明らかににすることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
「勤怠表」のデータベース化をさらに進め、精度の高い推定結果を出していく。さらに、勤怠状況だけでなく、入職後の成績を模索する。より直接的な入職後の成績としては、出炭高であろう。出炭高と労働者氏名をあわせて明記した史料は少ないが、採用形態とつなぎ合わせることができれば、推薦採用の効果として興味深い結果を提示することができるだろう。
|
次年度使用額が生じた理由 |
海外学会での報告を予定していたが、それよりも資料整理や、論文の投稿に時間を割いたため次年度使用額が生じた。次年度の予定は以下の通りである。資料調査で使用するための計算機を購入、資料調査(九州大学)に赴く。資料整理要員を補充し、資料分析を依頼する。「勤怠表」分析を行った研究結果を海外学会で報告する。
|