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2018 年度 実施状況報告書

戦後アメリカ移民政策と企業・経営者―高度技能移民の受入をめぐって

研究課題

研究課題/領域番号 18K12828
研究機関敬愛大学

研究代表者

下斗米 秀之  敬愛大学, 経済学部, 准教授 (50758563)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2020-03-31
キーワードアメリカ / 移民政策 / 高技能移民 / 企業経営者 / インド / 移民法
研究実績の概要

2018年度は、6月にアメリカ学会で、9月にアメリカ史学会でそれぞれ研究報告を行った。アメリカ学会では、前年度に提出した博士論文の概要について報告した。ここでは、19世紀末から1920年代の移民制限政策の策定過程に着目し、労働力需要の多くを移民労働者に負っていた企業経営者らの移民政策に対する影響力を検証した。企業経営者は積極的なロビー活動を通じて、アメリカ経済を利する人材を獲得する政策を引き出し、移民政策に産業界の利害を反映させたことを、移民制限の時代にあっても、労働市場に配慮した労働力供給システムが機能したことを明らかにした。
9月は、『「ヘイトの時代」に考える移民・難民保護のポリティクス』と題するアメリカ史学会主催のシンポジウムに登壇し、経済史・経済学の研究成果を示しながら、アメリカ経済にとって移民とはどのような存在なのかを考察した。この研究成果は「1920年代アメリカ移民政策における企業経営者――経済史および労働経済学の移民研究の動向から」(研究動向)『政経論叢』(明治大学政治経済学部)第87巻1・2号、2019年1月として発表している。
6月と9月の学会報告、そして1月の論文発表はいずれも、戦前・戦後の移民政策の有機的な結びつきを明らかにする本研究課題を考察するための重要な準備作業となった。
上記に加えて、夏休みを利用して、ニューヨークのロックフェラーアーカイブスで、戦後の開発途上国に対する技術援助に関する史料調査を実施した。戦後アメリカはアジアからの高技能移民を大量に受け入れたため、こうしたアジア諸国に対してアメリカの巨大財団がどのように関与したのかを実証的に明らかにするためである。史料収集の成果は次年度以降に発表する予定である。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

上記にも示した通り、2018年度は2度の学会報告を実施し、それらの成果を1本の紀要論文にまとめた。しかし、いずれも本研究課題「戦後アメリカ移民政策と企業・経営者―高度技能移民の受入をめぐって」を考察するための準備作業であり、戦前と戦後の関連を問うために必要不可欠な作業であったとはいえ、戦後の分析はまだ不十分である。
夏休みに実施した史料調査は、戦後アメリカのインドに対する技術援助の実態を明らかにすることが目的であった。その理由は、戦後アメリカが受け入れる高技能移民の多くがアジア、とくにインド出身だからである。すなわち、アメリカを中心とした欧米諸国による開発援助・技術援助なくしてインド人エンジニアの養成は困難であり、インド人エンジニアの養成にアメリカ産業界がどのようにかかわっていたのかを具体的に理解する必要があった。とはいえ、研究を始めると経済史・国際政治史・技術史など分野横断的な技術援助に関する先行研究を整理するのに時間がかかり、当初の想定よりは本研究課題の進捗は遅れていると言わざるを得ない。
とはいえ、言うまでもなく今日のアメリカIT情報産業企業の興隆にインド人エンジニアの存在は不可欠なのであり、彼らの養成過程にアメリカ産業が深く関わっているのであれば、その歴史的起源を明らかにすることも重要な研究課題である。
現在はアメリカのインドに対する技術援助(インド人技術者の養成、訓練、留学などの相互交流を含む)の実態解明につとめている。

今後の研究の推進方策

2019年度は、上記で課題とした戦後の移民政策における重要な論点である、高技能移民労働者の受け入れについて本格的に検討を始めたい。これまで収集してきた史料の読み込みにくわえて、アメリカの国立公文書館(NARA)での史料収集も実施する予定である。
これまでの予備調査で、フォードやロックフェラーなどアメリカの大型民間財団による資金援助によって米印間の技術者交流(インド人訓練生の受け入れや大学への留学)が促され、次々にインド人技術者が養成されてきたことが明らかとなった。しかしそれだけでは不十分である。民間財団による技術援助と米印両政府による対外援助政策との関係、具体的な援助活動やその人的交流の規模、その後の米印関係への影響をも含めた広い視野が求められる。
戦後アメリカは途上国への技術援助を通じて自国だけでは養成できない高技能労働者を育成し、そうした人材の移民政策を通じた積極的な受け入れを主要な政治課題としたのではないか。こうした仮説を実証的に明らかにするためには、移民政策史研究と技術援助政策史との分野横断的な視点が不可欠なのであり、引き続き、積極的な一次史料の収集に努め、学会や研究会などで成果を発表していきたい。
現時点で出版時期は未定であるが、おそらく2020年春頃に、日本経済評論社より出版される横井勝彦ほか編『アジア諸国の軍事的自立化に関する経済史研究』で本研究の成果の一部を発表できる予定である。また本研究の成果の一部として、坂出健、秋元英一、加藤一誠編『入門アメリカ経済Q&A100』(中央経済社、2019年5月)の中の「Q11 アメリカにとって移民とは何か?」「Q72 メキシコ国境の壁は移民問題を解決するか?」の2つの原稿も出版予定である。

次年度使用額が生じた理由

次年度は、アメリカへの史料収集(今年度の史料調査は別の研究費から支出)および、関連書籍の購入、ノートパソコンなどの備品の購入、さらに国内学会への出張旅費等に充てる予定である。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2019 2018

すべて 雑誌論文 (1件) (うちオープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)

  • [雑誌論文] 1920年代アメリカ移民政策における企業経営者――経済史および労働経済学の移民研究の動向から2019

    • 著者名/発表者名
      下斗米秀之
    • 雑誌名

      政経論叢

      巻: 87巻 ページ: 65-90

    • オープンアクセス
  • [学会発表] 企業経営者からみるアメリカ移民政策史2019

    • 著者名/発表者名
      下斗米秀之
    • 学会等名
      日本アメリカ史学会
    • 招待講演
  • [学会発表] アメリカ経済史研究における移民制限問題――1920年代移民法の成立と企業・経営者団体2018

    • 著者名/発表者名
      下斗米秀之
    • 学会等名
      アメリカ学会

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公開日: 2021-01-27  

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