本研究課題は、イギリス鉄道技術者のデータベース構築を通して、その関係性・ネットワークを明らかにし、彼らのルーツと役割・業績・影響力について、鉄道業の生成・発展との関連の中で再評価することを目的としている。これまで、18世紀から20世紀初頭にかけての鉄道技術者のリストについて、氏名・誕生年・死亡年・出生地・主な職業・親の氏名と職業、教育、徒弟制度利用状況、調査・計画立案・建設・監督等に関与した鉄道会社名と肩書および期間、特許取得状況、出版物、パートナーその他関連情報等を入力・アップデートする作業を行った。そして、技師の関係性分析を通して、土木技師と炭鉱・機械技師ネットワークについて、排他的・競争的である一方、時に協調的側面も有しており、その関係性は極めて複雑であることを明らかにした。 これらの成果の一部は、2022年3月12日(土)に開催された鉄道史学会2021年度第3回例会(オンライン開催)において、「19世紀後半におけるイギリス鉄道技師」として報告を行った。また、この報告をさらに発展させる形で、2022年10月2日(日)に開催された鉄道史学会第40回大会(国士舘大学)において、共通論題「鉄道におけるナショナル・インターナショナル・トランスナショナル」を組織化し、問題提起に引き続き、「イギリス鉄道技師の海外展開」についてパネル報告・討論を行い、貴重なフィードバックを得た。 本研究は、鉄道技術者の競争と協調という二つの視点に着目し、産業革命期以降の技術者でマクロレベルの大発明を担った発明家・技術者だけでなく、これまであまり重視されてこなかったミクロレベルの標準的発明家・技術者についても網羅し、鉄道業に関する知識・技術の普及とそれを可能にした社会的・人的資本ネットワークの形成・発展をよりダイナミックな視点から明らかにしようとするところに意義がある。
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