本研究の主な目的は、各主体が有する技術に対する認識が技術進化の方向性にどのような影響を与えるのか、そのメカニズムの一端を明らかにすることである。 平成30年度は、調査(①研究開発段階における炭素繊維技術の認識に関する調査、②日本を代表するエレクトロニクスメーカーにおける研究所と事業部における技術認識の多様性あるいは相違に関する調査、③京都に本社を置く計測機器メーカーにおける生産現場における技術知識の進化に関する調査)と(技術マネジメント研究の流れを確認するための)学会への参加が中心であった。調査は指導する社会人院生とともに実施した。 平成31年度は、平成30年度に実施した計測機器メーカーの調査を掘り下げた。一連の調査に基づいた研究成果は未発表ではあるが、その一部(計測機器メーカーの工場移転に伴う生産技術知識に関する調査)については調査を共同で行った社会人院生の修士学位論文に用いられた。 上述の調査と関連して、研究代表者がこれまで行ってきた板ガラス成形技術、とりわけフロート法の進化の歴史を改めて振り返り、技術ライセンスのあり方が当該技術に関する認識を統合(平準化)し、その契約期間が終わりを迎える頃には、各社の技術認識(とりわけ技術的限界に関する認識)に従って、(技術的な知見に大きな差がないはずにもかかわらず)異なる進化が見られる可能性を指摘した。この実績は名古屋市立大学経済学会のディスカッションペーパー(「技術認識が技術進化に与える影響:板ガラス成形技術の事例」)として登録されている。 以上の研究は、事後的に支配的になった技術に焦点を当てたもので、歴史的に振り返ってみると支配的になれなかった技術との併存期間における相互作用を見落としてきたと言える。2020年度からは、複数の技術が競合・併存する期間に焦点を当てた研究を行う予定である(研究課題20K13587)。
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