2022年度は、前年度の結果をもとに研究を推進した。2021年度の研究成果から、「仕事外の要因(私的生活部分)」が「離職意思」や「離職行動」に有意な影響を与えることが確認された。具体的には、「経済的な困窮」、「育児の負担増」などが「離職意思」や「離職行動」に有意な正の影響を及ぼしていた。以上の結果から、仕事内容とは直接関係のない私的生活の状況が従業員の離職に影響を及ぼすことが推測される。 本年度は、上記結果が「性別」や「年代」によって違いがあるのかについて追加分析を行った。具体的には、「過去3年間の私生活の課題感」を説明変数、「離職意思」を応答変数、「仕事内容の不満」、「給与・待遇の不満」、「職場の人間関係に問題」をコントロール変数として重回帰分析を行った。分析の結果、性別に関係なく、私生活の課題感は「離職意思」に有意な正の影響を及ぼすことが確認された。説明力を示す調整済みR2値は、男性が0.38、女性が0.40であった。また、影響力の大きさを示す標準化係数βは、男性が.18、女性が.14となっており、男性の方が影響が大きいという結果になった。 次に、回答者を20代・30代・40代・50代に分割して同様の分析を行った。分析の結果、全ての年代において、「私生活の課題感」は「離職意思」に有意な正の影響を与えることが確認された。標準化係数βは、20代が.23、30代が.21、40代が.10、50代が.12であった。本結果のみで判断することはできないが、私生活の課題感は20代・30代のような比較的若い年代において影響が大きいことが推測される。 本研究のこれまでの成果は、仕事内容とは直接関係のない私生活の状況が離職意思や離職行動に有意な影響を与えることを示唆している。従業員の離職を防ぐためには、職場内の要因だけでなく、職場外の要因にも目を向けていく必要があると言えるだろう。
|