本研究は、近年の日本の経済成長の停滞とアジア市場の急速な発展の中での中小企業の国際展開の可能性に焦点を当てた。特に、経営資源が限定された中小企業がどのようにして海外での成功を収めることができるかを探求した。研究目的は、限られた経営資源しか持たない中小企業が国際展開を通じてどのようにしてグローバルに成長することができるか、その成功要因を明らかにすることであった。 研究方法としては、定性的事例研究法を採用し、国内外の企業経営者へのヒアリングや過去のデータ収集など、時間的展開を追うアプローチを取った。本研究開始以前から調査を行ってきた中小企業を再訪問し、社史や新聞記事などからもデータを収集した。また、新型コロナウィルスの流行による影響をオンラインツールを活用して克服した。 研究の成果は、以下の四点にまとめられる。第一に、中小企業が直面する「市場の低流動性」という日本の事業環境の理解が、経営戦略を検討する上での重要な知識となることを示した。第二に、日本の中小企業の事業展開にとって重要な「アレンジ能力」と「関係的資産」という二つの経営資源を特定した。「アレンジ能力」は、限られたリソースの中で顧客を満足させる能力であり、「関係的資産」は顧客との信頼関係に基づく情報的経営資源である。これらは国内だけでなく海外での事業成功にも不可欠なものであった。第三に、海外での取引を通じて国内の事業構造転換を促進するパターンを発見した。これは、海外の日系企業との取引を通じて、国内外の顧客との関係を強化することで達成されるものであった。第四に、中小企業のグローバル経営の優位性について議論し、海外事業が新たな市場開拓だけでなく、人材育成の場としても機能することを示した。
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