研究実績の概要 |
本科学研究費助成事業の最終年度として、これまでの研究成果をまとめて研究論文として発表した。但し、コロナ禍の影響で計画していたシリコンバレーの2回目の訪問調査や中国や台湾の追加調査を断念し、未使用研究費を返却することとなった。配分された研究費を十分に活用できずに申し訳なく感じる。 最終年度は、滑業家の概念提起に対する実務家からの評価の検証や国内外における追加的事例研究を行った結果、概念の妥当性に対する評価を得るとともに、概念を補完する事例を複数観察した。 国際比較対象とした米国でも、事業初年度に実施したシリコンバレーにおけるインタビューと令和4年度に実施したGil(2018, High Growth Handbook: Scaling Startups from 10 to 10,000 People, Stripe Press)において、急成長するベンチャーにおいて主に支援部門における経営幹部層の欠員を既存の経営幹部を一時的に充てて埋めるという「絆創膏現象」の事例が幾つも見出され、それを担う人物が「ギャップフィラー」と呼ばれていた。 本研究の対象である「滑業家」はギャップフィラーと酷似する存在と考えられるが、日本では部門トップだけでなく実務担当者レベルでも同様の現象が見られており、これは曖昧な職掌定義のもとでゼネラリスト人材を生み出す傾向の強い日本の雇用慣行が影響していると解釈した。 本研究から得られた実務的示唆として、急成長を志向するスタートアップ企業では、首尾よく急成長を果たしつつある段階で生じる穴を埋める存在の必要性を認識し、その役割を担う滑業家となることのできる人物を初期の段階から意図的に経営チームに加えることが望ましいことを指摘した。また、国際比較を踏まえ、滑業家はM&Aにより吸収した企業の経営者を活かす方策としても有効であることを指摘した。
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