本研究は,ワーク・ライフ・バランス支援制度が従業員の仕事と生活におけるアイデンティティ形成に及ぼす影響について明らかにすることを目的としている。具体的には,①ワーク・ライフ・バランス支援制度と従業員のアイデンティティ形成の関係についての理論的研究と,②ワーク・ライフ・バランス支援制度の導入事例を対象とした経験的研究を同時並行で実施するものである。 以上の目的に沿って,研究最終年度にあたる令和3年度は,昨年度までの研究実績を踏まえて,②の経験的研究の成果報告を中心として研究を実施した。第1に,ワーク・ライフ・バランスの取り組みと従業員のもつアイデンティティ志向性の関係に関する定量的調査である。運送業A社におけるトラック・ドライバーを中心とした従業員に対してアンケート調査を実施し,彼らのアイデンティティ志向性と人事制度やワーク・ライフ・バランス経営に対する知覚の関係に関する定量的分析を行なった。その分析結果について,2021年9月発行の『中京経営研究』第31巻第1号に掲載した。 第2に,日本企業の人事実践の変遷に関するテキスト分析である。日本経済団体連合会の経営労働政策特別委員会が年初に公表する『経営労働政策特別委員会報告』を対象として,ワーク・ライフ・バランス支援制度も含めた30年間の日本企業の人事実践の変遷とその背後にあるロジックについて分析を行なった。そして,分析結果について,2021年10月に開催された組織学会2022年度年次大会において「日本企業における従業員に対する管理実践の変容:制度ロジックの複数性と実践の動態」と題して報告した。
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