研究課題/領域番号 |
18K12865
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研究機関 | 同志社女子大学 |
研究代表者 |
福本 俊樹 同志社女子大学, 現代社会学部, 助教 (50736907)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 組織エスノグラフィー / 実践的有用性 / 組織開発 / 臨床的アプローチ / 経営理念 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、組織エスノグラフィーという調査研究方法を取り上げ、「研究者が組織エスノグラフィーをする」ことが経営実践に対していかなる有用性を持つかを経験的に検討することにある。こうした検討は、研究者と(調査対象者となる)実務家との間の関わり合いのあり方についての方法論的考察を必要とする。4年目にあたる本年度は、以下の3点に取り組んだ。 (1)昨年度に引き続き、大学発ベンチャーを立ち上げつつある企業家の支援に携わりながら、企業家活動の理解、および、起業家(調査対象者)と研究者(筆者)の関わり合いのあり方にまつわるデータを収集した。 (2)経営理念の抜本的変革を行った企業A社において、新たな理念の浸透にまつわる調査・支援を実施した。具体的には、経営理念の刷新によってA社各部署の職場文化がどのような影響を受けたのかを捉えるべく、従業員を対象にインタビュー調査を行い、さらに、そこから得られた知見をもとにA社の今後の理念浸透に対する提言を行った。本調査では、研究者(筆者)が、A社(調査対象)の経営活動にどのような関与・介入を試みてきたのかについてのエスノグラフィックなデータが記録・蓄積されている。 (3)研究者と実務家との関わり合いのあり方についての方法論的考察を行った。具体的には、昨年度に検討した二人称的アプローチを経営学における臨床的アプローチのひとつとして位置付け直すとともに、臨床的アプローチの方法論的視座を際立たせる論文を執筆した(編著書の章の一つとして掲載予定だが、公刊日未定のため本報告書には挙げていない)。臨床的アプローチと組織エスノグラフィーには共通点も多々あり、何より組織エスノグラフィーの実践にとっても臨床的視点は不可欠であるとされている。それゆえ、臨床的アプローチの方法論的意義を明確にすることは、組織エスノグラフィーの実践的有用性を検討するにあたっても重要な論点となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画では、本年度は最終年度であり、本研究の集大成として学術書籍の公刊が予定されていたが、達成できなかった。その一方で、あと1年間の延長期間に何本か論文を公刊できる目処もついてきたため、「やや遅れている」と評価した。 まず、これまで取り組んできた(1)大学発ベンチャーを立ち上げる企業家の企業家活動とその支援についての研究であるが、コロナ禍の影響を受けて企業家活動それ自体が次第に後ろ倒しになり、最終的には、新規ビジネスの立ち上げを断念することになった。ただし、新規ビジネスの立ち上げが断念されたことそれ自体は、本研究課題の遂行にとっては致命的な問題ではない。新規ビジネスの立ち上げを断念したことは、企業家の意思決定(そしてそれに対する筆者の支援)としては必ずしも失敗を意味しないからだ(立ち上げを断念する方が賢明な判断である可能性もある)。しかしそれでも、データの分析枠組みの変更が迫られることになり、本年度中に研究成果をまとめ上げることができなかった。上述の通り、次の1年間で論文として公刊する計画は立っている。 (2)A社による新たな経営理念浸透の支援にまつわる研究についても、現在、データが収集・蓄積されている。こちらも本年度中には研究成果に結びつかなかったが、次の1年間では、論文として公刊する目処は立っている。
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今後の研究の推進方策 |
延長期間となる最後の1年では、(2)A社の調査・支援に継続して取り組みつつ、(1)企業家の事例とあわせて、研究成果の公表に努める。 (1)企業家の事例については上述の通り、新規ビジネスの立ち上げが断念されたため、これ以上の調査の継続は不可能になったが、現時点で論文としてまとめ上げるに十分な量のデータは集まっていると思われる。あとは、企業家研究の最近の動向を踏まえつつ、エスノグラフィーという方法論が経営実践(企業家活動)に対して持つ有用性の反省的考察に取り組みたい。 (2)A社の理念浸透に関する調査・支援については、現在も継続して実施中である。こちらは、厳密に言えば、「研究者が組織エスノグラフィーをすることが経営実践に対していかなる有用性を持つかを検討する」という本研究課題に則したものではない。というのは、ここでは理念浸透の職場文化への影響が調査されているが、その調査方法としてはインタビューと質問紙を用いているに過ぎないからだ。しかし、これら調査結果がどのようにA社経営陣にフィードバックされ、どのように経営陣に受け入れられた(あるいは受け入れられなかった)のかについては、詳細なフィールドノーツが取られている。つまり、言わばここでは、研究者が研究成果を調査対象(者)にフィードバックし、そうした学術的知見が実際の経営実践に生かされたり生かされなかったりする、そうしたあらゆる社会調査に付随する研究と実務とのインターフェイスについてのエスノグラフィーが試みられている。これは、研究者と実務家の関わり合いのあり方自体を問われるべきものとしてクローズ・アップするという点で、組織エスノグラフィーという方法が持つ実践的有用性を、また別の形で示すことになるだろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、海外を含む学会への参加・報告、および、フィールド調査を行うための旅費を計上していたが、コロナ禍のため出張ができず、フィールド調査もオンラインで行う形になったため、旅費が未使用に終わってしまった。 次年度も、多くの学会がオンライン開催になり、調査も引き続きオンラインで行うものが主になるため、旅費としての執行は難しくなることが予想される。研究遂行上、必要なものは物品費等に振り分けて執行し、余った分は返還する予定である。
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