研究課題/領域番号 |
18K12867
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研究機関 | 拓殖大学 |
研究代表者 |
足代 訓史 拓殖大学, 商学部, 准教授 (40583258)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 企業家の失敗 / アントレプレナーシップ / 認識枠組み / ビジネスモデル / ドメイン |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、企業家による事業の失敗からのリカバリープロセス(回復・転換過程)のメカニズム・論理を、(1)企業家自身の事業に対する認識枠組みの変化と、(2)企業家によるビジネスモデル(事業の仕組み)に関する学習の2点から明らかにすることである。本研究課題に迫るため、平成31年度も理論研究と事例調査とを同時並行的に推進した。 理論研究に関しては、今年度は特に、企業家の失敗に関する研究群と、企業家による事業の認識枠組みに関する先行研究の収集・検討を進めた。具体的には、企業家のスタートアップ期における失敗要因に関する先行研究を、(1)新しさゆえの脆弱性(Liability of newness)、(2)人的資本(Human capital)の不足、(3)認知バイアス(Cognitive bias)による過信(Overconfidence)、(4)意思決定の型(Decision making style)の非適合、の4つの論点に整理した。本研究では特に、分析枠組みとして(3)と(4)の観点に注目しており、過信による経営資源の獲得・利用・配分の失敗、エフェクチュエーションからコーゼーションへのシフトの失敗といった具体的な研究課題を導くことができた。 事例調査に関しては、企業家へのインタビュー調査と企業家の失敗事例データベース集の分析を引き続きおこなっている。前者に関しては、今年度は企業家2名へのインタビュー調査をおこなった。また、さらなるインタビュー調査への事前準備を進めた。後者に関しては、海外のスタートアップの失敗事例のオープンデータベースに掲載されているブログポストの分析データ化をおこなった。具体的には、スタートアップの企業家自身による「失敗の振り返り記事」のテキストデータベースとその企業家の属性情報のデータベースを作っていった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成31年度中の目標は、理論研究に関しては、(1)分析枠組みの構築(認識枠組みとビジネスモデル概念・ドメイン概念による枠組み構築)をおこなうこと、事例調査に関しては、(2)平成30年度に引き続いてのインタビュー調査と、(3)失敗事例データベースの分析を引き続きおこなうことであった。また、(4)前年度の事例研究結果を用いての、分析枠組みの妥当性・正当性検証も開始する予定であった。 (1)に関しては、上述の通り先行研究の整理を進めたが、ドメイン概念に関する先行研究の整理は不十分であった。(2)と(3)に関しては、概ね計画通り進行したが、(3)の企業家の属性情報のデータベース整備に時間を要し、完了には至らなかった。(4)に関しては、(1)の先行研究の整理と併せ、分析枠組みの構築と妥当性・正当性の確認は開始することができた。 以上から、本年度の自己評価を「(3)やや遅れている」としたい。
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今後の研究の推進方策 |
理論研究に関しては、平成32年度の前半にまずドメイン概念の先行研究の整理を進めることで、企業家が事業の失敗を経て、事業の領域設定やそこで必要となる経営資源に対する認識をどう変えたかを分析するための枠組みを構築したい。また、企業家の認知バイアスによる過信、意思決定の型の非適合という、企業家の認識枠組みと事業の失敗に関する理論的論点をより精緻化したい。事例調査に関しては、インタビュー調査と失敗事例のデータベース分析を終了したい。後者に関しては、当該作業に工数が想定以上にかかっており、外部業者の活用も視野に入れている。 平成32年度の後半には、これまでの2年間の研究成果を踏まえた統合的分析と最終的な理論的整理、今後の研究余地の検討をおこなう計画である。以上の推進内容に関しては、適宜学会報告や論文投稿をおこなっていく予定である。なお、社会情勢によって柔軟にスケジュールを変更する可能性もある。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成31年度のインタビュー調査にかかる謝礼を計上していたが、インタビュー対象の企業家の方のご厚意により、謝礼を用いずに調査を遂行できた。また、文献の購入費用も当初予定より低く済んだ。左記より未使用額(次年度使用額)が発生した。 次年度に請求する研究費の主な使用目的は、文献収集、国際・国内学会における情報収集ならびに学会報告・聴講、インタビュー調査である。上記の未使用額(次年度使用額)はこれらの遂行に用い、その上でさらに未使用額が発生する可能性がある場合には、国際・国内学会への出張に関する費用の補填や、分析データベースの整備における外部業者の活用に用いたい。
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