本研究は、企業や非営利組織(NPO)が自ら開発あるいは採用した社会イノベーションを定着(持続)させるために必要となる信頼とその構築プロセスを明らかにすることを目的としてきた。この研究目的に至った背景には、認知症などの介護に関する社会課題を解決するために開発された社会イノベーションに焦点を当てると、介護組織(高齢者介護施設)が企業などによって開発された社会イノベーションを採用しても、継続的に展開することができていないという実務的な課題と定着研究の理論的発展が乏しいという課題があった。本研究では、介護の公的保険外サービスを社会イノベーションであると捉え、保険外サービスが介護組織によって継続的に展開されるために必要となる信頼について、インタビュー調査および観察、アンケート調査を実施して、計量的かつ質的に分析してきた。 最終年度である2020年度は、本研究の実施期間に行った国際学会での研究発表を通じて多くの海外研究者から得てきたコメントやアドバイスを参考にして、電話やZoom等を使った追加のインタビュー調査を行い、学術論文の改善に努めた。その結果、2020年度は、国内の学術誌に合計3本の査読付き論文が採択された。 本研究の意義は、社会イノベーションの定着メカニズムについて、信頼の観点から考察してきたことにある。社会イノベーションのプロセスに焦点を当てれば、社会イノベーションの創出と普及に関する研究は従来から重視されてきたが、定着のロジックはあまり議論されてこなかった。また、信頼研究では、信頼のタイプとその効果、構築プロセスに関する理論的発展が求められてきた。本研究は、感情的信頼(affective trust)の効果に着目し、定着に関しては経時的なデータを用いて生存時間解析を行っている点が、経営学の発展に貢献すると思われる新たな視点であるといえる。
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