近年、利用者自身が製品の創造・改良を行うユーザーイノベーションに注目が集まっている。ところが、消費者がユーザーイノベーションを実現するにあたり、消費に対する態度と製品の創造・改良の実現がどのような関係にあるかは十分に解明されているとはいえない。本研究の目的は、消費における志向性とユーザーイノベーション実現を関係付けること、および、製品開発において消費者の革新性が果たす役割を見出すことである。 研究最終年度である令和4年度は、(1)調査設計の見直し、(2)定性調査の実施、および(3)研究成果の報告を行った。まず、新型コロナウイルス感染症のまん延を踏まえた調査設計の変更を行った。対処する必要があった困難は、コロナ禍によって消費行動自体が変化したこと、および、コロナ禍からの回復状況が比較を行う予定であった日米で大きく異なることであった。そこで、因果関係の同定が困難な統計的方法に依拠するのではなく、過程追跡が可能な範囲に絞って事例研究を行うことにした。そして、ユーザーイノベーションの販売実績を持つデザイナー、アパレルイノベーター、ソーシャルイノベーションの担い手に対して定性調査を日伊で行った。なお、コロナ禍以前に取得したデータに対する統計的方法による分析は前年度までに実施済みである。 研究期間全体を通じて、(A)消費者イノベーターは趣味の分野において趣味の分野の手法を用いてイノベーションを実現すること、(B)消費者イノベーションの実現において共創手法と同様に分野外情報の探索は有効であるが、新機能の実現という側面に寄与する一方、イノベーションの実現可能性は下げること、(C)消費者イノベーションには実験が、企業内でのイノベーションの実現には観察が安定的な説明力を有することを見出した。また、(D)消費者イノベーションを統計的方法で調査するためのリードユーザー尺度の標準化を実現した。
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