研究課題/領域番号 |
18K12890
|
研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
石田 惣平 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 講師 (20780315)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 会計 / 業績予想 / 経営絵者能力 / 経営者交代 / 経営者報酬 |
研究実績の概要 |
経営者が公表する業績予想は経営者や投資家の過度な短期志向を助長する可能性があることから、近年、廃止しようとする気運が高まっている。しかし、業績予想の廃止は社会的なコストになる可能性がある。業績予想は経営者自身によって開示される情報であることから、経営者の能力が反映されていると考えられる。仮にそうであるならば、業績予想は経営者の能力を伝達するシグナルとなり、経営者の労働市場においてその能力を判断する重要な材料として利用されている可能性がある。このことは、業績予想が廃止されることで、経営者の労働市場が非効率的になりかねないことを意味する。 本研究は業績予想の開示が実質的に強制されている日本企業を対象として、業績予想には経営者の能力が反映されているのか、経営者の労働市場おいて業績予想が利用されているのかについて実証的な分析を行っている。令和1年度は、経営者交代の意思決定において業績予想情報が利用されているかどうかを検証している。主たる発見事項は次の通りである。第1に、業績予想の誤差や改訂幅が大きい企業の経営者ほど交代させられる確率は高いことが明らかとなっている。第2に、企業業績が高い企業ほど、経営者交代と業績予想の誤差あるいは改訂幅との関係は弱くなることが確認されている。第3に、株式持合比率が低い企業ほど、経営者交代と業績予想の誤差あるいは改訂幅との関係は強くなることがわかっている。第4に、誤差や改訂幅の大きい業績予想を公表する者から小さい業績予想を開示する者に経営者が交代した場合、その後の企業業績が改善することが示されている。これらの発見事項は、業績予想情報は経営者の能力を評価するのに利用されていること、また業績予想情報にもとづく経営者交代は効率的なものであることを示唆している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた通り、日本企業を対象として、経営者交代の意思決定において業績予想情報が利用されていることが確認され、またその研究成果を査読付きジャーナルである『現代ディスクロージャー研究』に掲載することができた。こうした点から、令和1年度の進捗状況を「おおむね順調に進捗している」としている。
|
今後の研究の推進方策 |
令和2年度は、平成30年度に構築した経営者能力スコアを用いて、業績予想には経営者能力が反映されているかどうかを検証する。具体的には、業績予想の正確度と経営者能力との関係を分析することによって、経営者能力が業績予想情報に織り込まれているか否かを分析する。仮に業績予想に経営者能力が反映されているのであれば、能力の高い経営者が公表する業績予想ほど正確度の高い者となると予想される。本研究は、上記の仮説を、アーカイバルデータをもちいて検証をおこなう。
|