経営者が公表する業績予想は経営者や投資家の過度な短期志向を助長する可能性があることから、近年、廃止しようとする気運が高まっている。しかし、業績予想の廃止は社会的なコストになる可能性がある。業績予想は経営者自身によって開示される情報であることから、経営者の能力が反映されていると考えられる。仮にそうであるならば、業績予想は経営者の能力を伝達するシグナルとなり、経営者の労働市場においてその能力を判断する重要な材料として利用されている可能性がある。このことは、業績予想が廃止されることで、経営者の労働市場が非効率的になりかねないことを意味する。 本研究は業績予想の開示が実質的に強制されている日本企業を対象として、業績予想には経営者の能力が反映されているのか、経営者の労働市場おいて業績予想が利用されているのかについて実証的な分析を行っている。令和2年度は、Demerjian et al. (2012)が考案したManagerial Ability Score(MA Score)を用いて、業績予想には経営者の能力が反映されているかを検証している。主たる発見事項は次の通りである。第1に、経営者の能力が高い企業ほど業績予想の誤差が小さいことが明らかとなっている。第2に、経営者の能力が高い企業ほど業績予想の改訂回数が少ないことが確認されている。第3に、経営者の能力が高い企業ほど業績予想の改訂幅が小さいことがわかっている。第4に、経営者の能力が高い企業ほど業績予想の誤差を小さくすることを目的とした利益調整を行わないことが示されている。これらの発見事項は、業績予想情報は経営者の能力を反映しており、業績予想情報に基づいて経営者の能力を評価できることを示唆している。
|