地方公会計の有用性は地方公会計をめぐる国際的な研究課題のひとつである。本研究は地方公会計の予算設定に対する有用性に着眼し、「前年度の予算を基準にしながら限界的に上積みできる金額を考える」 (Wildavsky 1964) という増分主義に対して、その抑制に公会計情報が機能しているか否かについて明らかにすることを目的とした。具体的には、地方公共団体や独立行政法人等を対象として、予算を首長に提案し、官僚のあいだで予算額の調整をおこなう予算設定者 (budgeteer) (Thurmaier 1991; 1992) が公会計情報を有用に用いることができるのかについて質問紙実験を実施した。その結果、次のような発見事項を得た。 第1に、成果情報と決算情報について追加した質問紙実験を実施し、成果情報や決算情報が目標よりも高い場合、あるいは低い場合に予算額に影響することを明らかにした。第2に、実施した質問紙実験の結果についてデータベースと組み合わせることによって、財政的制限と行政コストならびに成果情報の影響について明らかにした。最後に、減価償却費が与える予算設定者の固定資産および行政コストの認識の変化に基づく意思決定への影響について明らかにした。本研究では、上記3つの発見事項を中心に、WPを3本、英語論文1本、日本語論文を4本、公会計テキストを出版した。 予算設定者や財務担当者による意思決定プロセスは、情報の活用という側面でうまく理論化されていないが、本研究の結果は、少なくとも事業別の行政コストや決算、成果情報が組み合わさることによって彼らの意思決定に影響することを示している。しかし、本研究は社会経済的な要因、政治的な影響、COVID-19の蔓延を契機としたデジタル化の影響、予算設定者の能力のような内部労働市場の影響を考慮できておらず、これらは今後の研究課題である。
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