本研究の目的は、数理モデルを用いて、経営者の自発的開示戦略と情報間の相互作用を検討し、自発的開示研究の発展に貢献することであった。Hayek (1945) が指摘しているように「さまざまな市場参加者の情報を織り込んでいるので、株価は有用な情報源である」。今年度は、経営者が同業他社の株価を利用して投資意思決定を行う状況に着目し、既存の研究を概観したうえで、簡単な理論モデルを構築した。 平成30年度は、自発的開示情報の一つであるCSR情報に関するモデルを扱い、企業が開示するCSR情報と自発的保証の質の関係を分析しているBagnoli and Watts(2017)をサーベイした。現在、数多くの企業がCSR報告書の開示を行っているので、CSR報告書がモデル上どのように扱われているかを検討することは、経営者の自発的開示と資本市場の関係を分析するために重要といえる。 情報開示が製品市場に与える影響についてはDarrough(1993)等数多く存在する。しかしながら、情報開示が資本市場および製品市場、双方における意思決定に影響するといった複数市場への影響を分析した文献はそれほど多くはないと思われる。令和元年度は、情報開示が複数市場へ与える影響を分析した文献の一つであるJain and Mirman(2000)をサーベイした。 令和2年、令和3年度は、資本市場における情報開示が製品市場に与える影響について、製品市場における同業他社の意思決定に影響を与える状況下で、経営者がどのような自発的開示戦略を取るのかについてDarrough(1993)を拡張する形で数理モデルを構築した。構築したモデルにおいては、技術のライセンス供与および生産活動から収益を得る企業がライセンスの供与相手である同業他社と数量競争を行う状況における、企業のライセンス戦略と自発的開示の関係にも焦点を当てた。
|