研究課題/領域番号 |
18K12901
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研究機関 | 拓殖大学 |
研究代表者 |
李 燕 拓殖大学, 商学部, 准教授 (40612875)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | インタビュー調査 / 多様性 / 管理会計の役割 |
研究実績の概要 |
本研究では,組織学習を促進する多様性に対する管理会計の役割を明らかにするために、多様性が文脈的特徴として考えられる複数の企業に対するインタビュー調査を通じて、経験的研究を蓄積していくことを目的とする。この研究は、2018年度~2020年度の研究期間で行う予定であり、研究初年度として、2018年度の実績は以下のようになる。 まずは以下の3社に対する複数の聞き取り調査を実施した。①ある日本の製造企業で、この企業は業績の右肩上がりを実現しつつ、SDGs大賞などを受賞している。②ある日本の多国籍企業であるが,この企業は人の成長を経営理念として掲げるとともに、株主資本利益率や時価総額を目標としている。③ある日本の製造企業で、この企業は日本的集団主義の価値観が企業文化としてありながら、個別部門の業績を明確にするような業績管理システムを導入している。以上のような3社は、社会的貢献とビジネス、人の成長と会計利益、集団主義の価値観と個別評価という、様々な側面からの多様性を表す組織的目的を追求している点で共通している。 研究実績として、③の会社の事例である集団主義の価値観と個別の業績評価の両立における管理会計の役割について、2018年5月イタリアで開催されたヨーロッパ会計学会、10月神戸大学大学院経営学研究科「計算と経営実践ワークショップ」(主催者:國部克彦教授)で報告を行った(共同研究者:日本大学・藤野雅史教授,京都大学・澤邉紀生教授)。また、メルコ学術振興財団のディスカッションペーパーとして、“Effects of disaggregated performance measures among managers with interdependent self-construal”(Fujino, M., Li.Y., and Sawabe. N ) を執筆・公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述したように、本研究では社会的貢献とビジネス、人の成長と会計利益、集団主義の価値観と個別評価という、様々な側面からの多様性を表す組織的目的を追及している企業に対する聞き取り調査を実施し、経験的知見を蓄積し、将来的に多様性による組織学習を促進する管理会計の役割に対する体系的な理解を得ることを目的とする。 2018年度は、この3社に対して、以下のように聞き取り調査を実施することができた。まず①の企業については、関係者5名に対して、計4回、約500分のインタビューを実施し、1回の公開ワークショップに参加した。これらの調査を通じて、社会的貢献とビジネスは矛盾するものではなく、企業はNPO、NGO、消費者、政府とともに連携しながら、ビジネスを通じて持続的な社会の実現において積極的な役割を果たすことができることが分かった。管理会計やコントロールツールは、様々な利害関係者を環境問題につなげるうえで重要な役割を果たしていた。次に、②の企業については、日本本社および海外子会社の担当者7名に対して、計5回、約785分のインタビューを実施した。この調査先の事例からは、人の成長を重視する企業では、財務的な会計情報を無視するのではなく、むしろ高い業績目標を掲げていることが分かった。高い業績目標のなかで、従業員が自らの成長を感じ、高いモチベーションを維持するマネジメント・コントロールの特徴について今後明らかにしていきたい。最後の③の会社については、当該研究が始まる前から調査を実施してきた調査先でもあり、2018年度は担当者2名に対して、1回、約120分の追加調査を実施した。この研究成果については、上述したようにすでに学術論文として取りまとめ、国内および国外の学会で発表を行っている。 以上のような理由から、2018年度の研究は当初の予定通りに順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の進捗方策については次のようになる。 まず企業①については、追加調査と学会報告、学術論文の執筆を予定している。具体的に2019年度4月~8月の間に、追加調査2回、工場見学1回を実施する予定である。その成果を、2019年8月末開催予定の日本管理会計研究会で報告し、学術誌『メルコ管理会計研究』に学術論文として投稿する。さらに英語論文をとりまとめ、2020年5月European Accounting Association, 6月のGlobal Management Accounting Research Seminarで報告する。その報告のフィードバックを得て、さらなる追加調査を行い、2021年度に英文ジャーナルに投稿する。 企業②の事例については、これまでの調査対象が取締役員クラスの方が多かったために、今後より現場に近い従業員に対する聞き取り調査を実施する。さらに、同社は上場企業でもあり、有価証券報告書をはじめ、ビジネス誌にたくさんの情報を公開している。それらの情報を踏まえたうえで、2019年11月までに学術論文をまとめ、上述した国内および国際学会で発表する。 企業③の事例については、おおよそ学術論文として完成しており、2019年度に海外のジャーナルに投稿する予定である。現段階でAccounting, Organization and Societyに投稿することを予定している。 将来的に、本研究からの個々の事例からの知見を体系化し、書籍としてまとめる。
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