研究課題/領域番号 |
18K12901
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研究機関 | 拓殖大学 |
研究代表者 |
李 燕 拓殖大学, 商学部, 准教授 (40612875)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 異なるロジックの統合 / インタビュー調査 / 管理会計 / ANT |
研究実績の概要 |
本研究では,組織学習を促進する多様性、特に異なるロジックの統合に対する管理会計の役割を、経験的研究を通じて明らかにすることを目的とする。本研究の2019年度の実績は以下のようになる。 まずは、2018年度からインタビュー調査を実施してきたある環境保全と経済発展の両立の実現をめざすプロジェクトに関する事例研究である。この事例は、環境保全と経済発展、営利企業とNGO組織、原料産地の環境問題と原料利用者としての製造メーカーという、複雑でダイナミックな価値観、評価原理がどのように一つのプロジェクトに組み込まれているかについて、管理会計研究において注目されるアクターネットワーク理論を用いて説明している。本事例は、2019年度日本管理会計研究学会において発表を行い、さらに加筆修正し、2020年7月開催予定のCritical Perspectives on Accounting Conferenceでオンライン報告予定の12本の論文の1つに選出された。今後Critical Perspectives on Accountingジャーナルに投稿する予定である。 もう1つは、日本的集団主義の価値観が企業文化としてありながら、個別部門の業績を明確にするような業績管理システムに関する事例研究である。2019年度の成果は、主に学術論文の執筆であり、2020年上半期中に国際ジャーナルに投稿する予定である。 また、日本における在日外資企業の業績管理システムに関する定量的研究を行った。管理会計研究で注目されるイネーブリングの概念を用いて、業績管理システムが、グループ全体に対する位置づけと日本市場に対する理解にどのような影響を与えるかについて分析を行った。その成果は、2019年度日本原価計算研究学会において発表を行い、学術論文としてとりまとめ、拓殖大学経営経理研究所紀要論文として公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述したように、本研究では環境保全と経済発展、集団主義の価値観と個別評価という、様々な側面からの多様性を表す組織的目的を追及している企業に対する聞き取り調査を実施し、経験的知見を蓄積し、将来的に多様性による組織学習を促進する管理会計の役割に対する体系的な理解を得ることを目的とする。 2019年度は、2018年度に引き続き、インタビュー調査を継続することで、豊富なデータを入手することができた。特に、当初の予定を超えて、対象企業の取り組みに密接にかかわるNGO、科学者、他の協力企業に対するインタビュー、公開ワークショップ、定例会などにも参加することができた。また、インタビュー調査だけではなく、日本管理会計学会全国大会、日本原価計算研究学会、海外の研究者を招いたワークショップ(8月のメルコの定性的管理会計ワークショップ、9月のリサーチセミナー)などにおいて報告を行うことができた。さらに、学術論文として、2本の英語の論文の執筆、公表済み1本の日本語の論文を執筆することができた。 これらの各々の研究成果は、それぞれ異なる文脈における個別の現象に焦点を当てているが、より巨視的で、抽象的なレベルにおいては、異なる価値観やロジック、原理が共存する企業や社会において、業績、評価、公式的なシステム、目標などの管理会計的な現象がどのような役割を果たしうるかという点において共通する。今後はこれらの個別の経験的発見を体系的にとりまとめ、理論としての管理会計に貢献することを目指したい。そのためには、管理会計だけではなく、幅広い理論的知識への理解も必要であるが、2019年度の研究におけるANT理論の援用はその1つとして位置づけることができると考える。以上のような理由から、2019年度の研究は当初の予定通りに順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画としては、引き続き学術論文としての完成度を高めるために、追加調査、学会報告などを行う。まず、現在執筆中の1つの論文については、2020年度上半期中に完成させ、Accounting, Organizations and Society誌に投稿する予定である。もう一つの論文についは、7月のCritical Perspective on Accounting Conference, 8月開催予定の第3回定性的管理会計研究ワークショップ(メルコ学術振興財団主催、英国Bristol大学で開催予定)に参加し、報告を行う予定である。両学会からは、すでに報告の許可を得ている。これらの発表を経て、加筆修正し、さらに学術論文としての完成度を高めていきたい。 また、聞き取り調査については、現在の論文の完成度を高めるための追加調査を行う。具体的に、上記の環境保全と経済発展プロジェクトに関する研究に関しては、日本企業、日本のNGOに対するインタビュー調査は実施することができたが、もう1つの重要なステークホルダーとしての環境破壊が行われている現地に対する調査は実施することができなかった。今後は、その調査を実施していきたい。 さらに、新たなテーマとして、2020年度は対象企業の発展途上国における支援を通じたビジネスの成立プロセスに注目して調査を進めていきたい。この調査は、2019年下半期からすでにスタートしており、ミャンマーを中心とした発展途上国の社会福祉事業について数回聞き取り調査を行っている。もう1つは、2020年1月から調査をし始めたある溶剤リサイクル事業を展開する日本企業の事例である。両社とも持続可能な社会の実現をビジネスの主軸としており、本研究のために示唆に富むデータを入手することが期待できる。なお、両社への聞き取りについては、すでに承諾を得ている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、新型コロナウィルス感染の影響により、当初予定していた調査ができなかったことである。新型コロナウィルスの状況が改善した後、聞き取り調査に必要な旅費などに使用する予定である。
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