本研究の目的は,企業情報が開示前に漏洩している可能性を実証的に明らかにすることである.2021年度は,学会および研究会での報告,論文の改訂を中心に進め,暫定的な研究成果は,"Pre-Disclosure Information Environment and Investors’ Behavior: Evidence from Order Submissions and Cancellations"と題する論文にまとめている.主たる発見事項は次の通りである.(1)利益発表前の期間において,経営者予想が改訂されている場合,コンセンサス予想が改訂されている場合,業績関連ニュースが報道されている場合に,投資家は積極的に注文を提示およびキャンセルする.(2)投資家はコンセンサス予想の改訂および業績関連ニュースの報道よりも,経営者予想の改訂に対して強く反応する.(3)投資家が提示する注文の方向性(売りまたは買い)は,経営者予想およびコンセンサス予想の改訂の方向性(上方修正または下方修正)と整合する.(4)利益発表直前の取引日において,投資家は積極的に注文を提示およびキャンセルする.以上の分析結果は,公的情報が公表されている場合,利益発表日が近づいている場合に,投資家は事前の期待を頻繁に改訂することを示唆している.企業情報が開示前に漏洩している可能性について,暫定的な結論は次の通りである.企業情報が開示前に漏洩している可能性を調査する研究では,企業情報の開示前における投資家の株式売買行動を分析している.ただし,本研究の分析結果によれば,利益発表直前の取引日において,投資家は頻繁に注文を提示およびキャンセルする傾向があるため,企業情報の開示前における投資家の株式売買行動を企業情報の漏洩と関連づける際には,こうした株式売買行動の平均的な傾向を考慮しなければならない.
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