本研究は、震災遺構の保存/解体の社会的過程に着目することによって、災禍という出来事と現代社会がいかに向き合うことができるのかを考察することを目的とする。その際、現存する東日本大震災の震災遺構を相対化する視点を確保したうえで、さらに東日本大震災の7年前にインドネシアを襲ったスマトラ島沖地震の震災遺構と比較対照させることで、東日本大震災をめぐる震災遺構の保存/解体をめぐる社会的過程の諸特質を捉え返す。 東北地方沿岸部およびインドネシア共和国アチェ州で実施した調査によって、二つの被災地における震災遺物との対照的な向き合い方が明らかになった。震災遺構それ自体の記録的価値に加え、その保存/解体のプロセスもまた当該地域の被災後の社会的過程として記述する意義が認められた。インドネシアの被災地では、震災後の地域復興と観光化に資する限りにおいて積極的に被災遺物を保存する傾向が見出された。他方、日本の被災地における被災遺物の保存においてもまた、震災伝承の意義が強調されるが、遺族感情や消費の対象とすることにかんする抵抗感が見出されるほか、地域社会における政治的対立や震災以前に遡る背景などが見出された。
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