2020年度は、計画書の(Ⅲ)地方農民における日常生活からの反理論と(Ⅳ)雑誌における読者の反理論と編集部による対応について、資料の収集と分析を進めた。(Ⅲ)については、『農民闘争』の分析を進めるとともに、『農民自治』と『農民闘争』の間における渋谷定輔の運動に対する意識の変化を、渋谷定輔と池田むめの往復書簡を中心に分析を行った。(Ⅳ)については、『文芸戦線』『戦旗』『労農』『マルクス主義』の分析が前年度に一定以上行えていたため、読者と編集部の関係がよりわかる『何を読むべきか』関連の雑誌の分析を進め、読者の反理論とパンフレットや入門書の関係を特に検討した。 これらの研究に加え、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、図書館や資料館の利用が難しい状況があったため、渋谷定輔文庫の調査や『何を読むべきか』関係雑誌の復刻を行うことから、資料の扱いに関する研究も進めた。資料論の動向について書籍を中心に調査を行うことで、図書館や資料館の利用が難しい状況を補った。 これらの成果については、2020年12月の第2回「メディア宗教」公開研究会において、「農民運動家にとっての社会主義と宗教観――渋谷定輔の社会運動とメディア」として報告を行った。また、2020年10月の2020年度日本マス・コミュニケーション学会秋季研究発表会において、有山輝雄氏・佐藤彰宣氏とともに「研究技法の共有と継承――研究の現場から シーズン0:資料の方法論」としてワークショップを行い、問題提起者として報告とコメントを行った。 また、本研究の内容を活用しつつ1920年代に関わる雑誌『朝日』『日の出』『文芸倶楽部』『大衆文芸』の項目を執筆し、落合教幸・阪本博志・藤井淑禎・渡辺憲司編『江戸川乱歩大辞典』(勉誠出版)に収められている。加えて、『何を読むべきか』関係雑誌は、不二出版から復刻することが決定し、解説を付した上で出版する予定になっている。
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