本研究の目的は、中国帰国者の医療受診における経験を通して、国内の文化的および言語的マイノリティ住民にまつわる日本の医療のあり方を再考することである。そのために、①日本の保健医療政策を史実に沿って検討(史実)、②中国帰国者当事者の語りの収集(実証)、③アメリカのマイノリティ・ヘルスの日本への応用(先例)、の3本柱で研究調査を進めてきた。しかしながら、2019年末に端を発した新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響で、約2年間、国内外におけるフィールド調査ができない状況に陥った。さらに中国帰国者の語りの収集(②)に関しては、COVID-19が落ち着いた後でも、諸々の事情により当事者を対象とした調査が再開できない状況が続いたため、彼らをとりまく支援団体や支援者への聞き取り調査に舵をきった。 一方、日本の保健医療政策の変遷をたどる(①)とともに、アメリカのマイノリティ・ヘルス政策を調査(③)していく中で、日本の政策に欠けているものはマイノリティ住民の「人権」であることが示唆された。そうした気づきから、2023年度はアメリカにおける公民権運動の聖地と言われるアトランタを訪問し、アメリカ社会に大きな変革を引き起こした歴史を持つアメリカ南部ならではの公民権や人権に関する歴史や現状について視察調査した。なおアトランタ渡航の費用に関しては、同地で開催されたアメリカ公衆衛生学会において口頭発表を行った別の科研研究プロジェクト(A20H01641A)と折半した。 本研究プロジェクトの集大成として、2024年3月10日、東京において、研究シンポジウム「移民がはぐくんできた歴史と文化から学び、これからの医療を考える」を主催し、パネルディスカッションにおいては、「移民を受け入れる日本社会への提言」を議論した。研究シンポジウムの全容を報告書にまとめ、関係機関および関係者各位に配布した。
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