研究課題/領域番号 |
18K12932
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研究機関 | 高崎経済大学 |
研究代表者 |
宇田 和子 高崎経済大学, 地域政策学部, 准教授 (90733551)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 化学物質過敏症 / 環境病 / 論争中の病 / 環境リスク / 知られざる病 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、微量な化学物質に反応することでさまざまな症状を発する「化学物質過敏症」について関係者に聞き取り調査を行い、病者の生活回復にとって有益な社会的・政策的対応を明らかにすることである。また、この考察を通じて、これまで社会学が領域ごとに「分断」してきた病の定義について再検討を加える。 2018年度は、病者、医師、病者児童の通う小学校、市役所等への聞き取り調査を行った。さらに、バウビオロギー(建築生態学)の専門家や、建材メーカー、建築工業界など、シックビルディングの関係者への聞き取りも実施できた。また、日本臨床環境医学会大会に参加し、医療関係者とのネットワークを広げることができた。 そのほかに、国内外の関連文献を蒐集し、174篇の論文および図書の書誌情報をデータベース化した。 上記の調査研究から明らかになったことは、二つある。一つ目は、化学物質過敏症はcontested illnesses(論争中の病)の典型例の一つと言われるが、当事者には「論争」が意識されていないということである。病の実在/不在を主張する専門家は、各々が正しいと考える前提に立って研究を遂行しており、論敵を説き伏せたり反論したりするようなコミュニケーションは存在していない。また患者にとって「論争」は、たんに病の否定として経験される。第三者からは「論争」が存在しているように見えても、当事者にしてみれば、それは争いとして経験されていないようである。 二つ目は、知られざる病一般への目配りの必要性である。論争中の病に限らず、医学的に承認された病であっても、認知度の低い病や障害はいくらでもある。われわれが知るべきは、認知度の低い特定の病に関する情報だけでなく、知らざる病が数多くあるという事実である。自分の身体性からは思いもしない配慮が必要なケースがあるということへの想像力が、病に対する社会的ケアの前提となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
聞き取り調査は、さまざまな対象者からの協力を得られたおかげで、順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においては、聞き取り調査を継続するとともに、「環境病」および「論争中の病」の概念を整理し、化学物質過敏症の社会学的位置づけを明確化させる。 2018年度は、NPO法人「有害化学物質削減ネットワーク」が作成する教科書において「化学物質過敏症」の解説を書いた(2019年度刊行予定)が、まだ学術論文の成果がないため、とくに学会誌への論文投稿に注力する。
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次年度使用額が生じた理由 |
アルバイトに対する謝金の見積もり額が高かったため、次年度使用額が生じた。これは翌年度、アルバイトへの謝金として使用する。
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