最終年度は、化学物質過敏症の病いの経験を明らかにすることを目的に、北海道に在住する関係者に対する聞き取り調査を実施した。新型コロナウイルスの感染拡大により現地を訪ねることは断念したが、手紙やメール、オンライン会議アプリを利用し、発症者、発症者家族、化学物質過敏症を診療している医師、発症者も使用できる製品を扱う画材店、発症者からの相談に応じた経験のある障害年金サポートセンター、保健所などに遠隔インタビューを行うことができた。また、オンライン会議アプリを利用し、講師を招いた香害セミナーを開催したり、電磁波過敏症問題に関する学習会に参加したりした。 上記の調査から、次の仮説が得られた。第一に、化学物質過敏症が実在するか否かという論争は依然として続いているが、多くの発症者を診療してきた臨床医の中には、経験的に獲得された診断基準が存在しているようである。 第二に、「香害」という問題フレームが、化学物質過敏症よりも広範な消費者に関係するものとして構築されつつある。この問題構築は、化学物質過敏症発症者の生活環境の改善に貢献するものであるが、同時に、香りのしない化学物質のリスクを見えなくしてしまう可能性がある。 第三に、電磁波過敏症については、病の実在をめぐって化学物質過敏症以上に深刻な論争が生じていると考えていたが、電力密度や磁場強度を測定できることから、むしろ明確な基準による議論が可能そうである。 上記の仮説について、今後さらなる調査を重ねて検証していく。
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