研究課題/領域番号 |
18K12934
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
川本 綾 大阪市立大学, 都市研究プラザ, 都市研究プラザ特別研究員 (90711945)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 移民第二世代の教育 / 母語・継承語 / 二重言語教育政策 / 韓国 / 国際結婚移住女性 |
研究実績の概要 |
今年度は、日韓の移民第二世代が抱えている教育にかかわる課題を同定するため、国内の事例については、神奈川、大阪、福島等の外国にルーツを持つ子どもたちへの学習支援を行っている市民団体を訪問し、教育や母語・継承語にかんするニーズについて、聞き取り調査を行った。また、大阪市内の公立小学校・中学校における外国にルーツを持つ子どもの保護者に対するアンケート調査に参加し、外国出身の保護者が抱える、子どもへの教育にかんする悩みや学校への要望、母語・継承語教育へのニーズについてパイロット調査を実施した。これは、次年度より対象を広げ、本格的に実施する予定である。次に、韓国の事例については、二重言語教育政策の展開について調査を進めるとともに、自らの出身国の言語や文化の継承にかかわる教育実践を行っている、国際結婚移住女性当事者による自助組織を訪問し、聞き取り調査を行った。これらの成果については、2018年12月に関連学会で発表するとともに、2019年1月に上智大学で開催された、移民の社会統合にかんするシンポジウム、同1月に大阪で開催された、外国にルーツを持つ子どもの教育支援に関する国際シンポジウムにて発表した。 上記の調査研究を進めるなかで、定住が進み、ホスト国の言語や文化を習得しているからこそ表面化しにくい、外国にルーツをもつ子どもたちやその親が抱える教育の問題が少しずつ明らかになった。本研究は、今後ますます増えることが予測される、外国にルーツを持つ子どもたちが、とりこぼされることなく教育を受ける機会を得るとともに、外国出身の親が持つ文化や言語を継承していくことも同時に保障されるような社会を形成するために必要なものである。また、そのため、日本に先駆けて移民国家としてのあり方を模索し、移民第二世代の教育についても同じような課題を抱える韓国の取り組みから新たな知見を得ていることも本研究の特徴である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3年間の研究期間のうち、最初の2年間は、アジア出身の母親とその子どもが抱える育児及び子どもの教育にかんする問題と母語・継承語教育のニーズを同定するための先行研究調査及び日韓現地調査を計画している。具体的には、①大阪府内および近郊都市内のアジア系移民親子へのライフヒストリー調査、②母語・継承語教育支援にかかわる市民団体、公立学校等、関連機関へのインタビュー調査、③韓国の関連機関(外国人集住地域の地方自治体、公立学校、多文化家族支援センター等)への現地インタビュー調査である。 1年目にあたる2018年度は、このうち、②と③の一部について実施した。②については関連市民団体へのインタビュー調査を進めた。また、教育機関における取組みについては、大阪市内の公立小・中学校における外国にルーツを持つ親とその親子に対する調査プロジェクトに参加しており、2019年度も引き続き調査を実施する予定である。③については、外国人集住地域及び非集住地域の多文化家族支援センターでの聞き取り調査のほか、国際結婚移住女性への聞き取り調査を進めた。 ①については、ラポールの形成に尽力しているところであり、現時点でライフヒストリー調査を実施するには至っていない。しかし、2年目である2019年度には重点的に調査を進める予定である。 また、全期間を通じての課題である研究成果の対外発信については、2018年12月に「移民政策学会」にて発表を行った他、2019年1月には「2018年度上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科大学院生・若手研究者イニシアティブによるシンポジウム・ワークショップシリーズ『移民の社会統合の理念と現実:後発国の比較研究』」にて、2019年2月には「地域で考える子どもの貧困・国際シンポジウム:東アジア諸国における外国にルーツを持つ子どもの支援と包摂型移民政策」にて発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度に引き続き調査研究を進めるほか、研究対象地域を、日韓だけでなく台湾にも広げることを考えている。調査を進める中で、台湾もまた「新移民」と呼ばれる国際結婚移住女性とその子どもたちをめぐる政策が、急速に整備されつつあることがわかった。なかでも、母語・継承語にかかわる移民政策については、二重言語教育政策を進めている韓国の事例と同じような経過をたどりつつあるようである。東アジアに共通する社会福祉レジームを持つと言われる、日本、韓国、台湾の中で、韓国と台湾は、移民国家として日本に先駆けて移民政策を拡充している。日本の移民国家としての後発性を考慮した際、韓国や台湾の事例は、今後移民国家へと向かわざるを得ない日本社会にとって有用な示唆点を持つと考える。今後は、政策的な側面における比較研究をより充実させるためにも、台湾を研究対象地域に加えることとしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた調査旅行のいくつかが、先方と日程が合わず次年度に延期されたため。
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