研究課題/領域番号 |
18K12938
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研究機関 | 下関市立大学 |
研究代表者 |
松本 貴文 下関市立大学, 経済学部, 准教授 (70611656)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 複業体制 / 自然資源活用 / 集落再生 |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年度実施したドイツバイエルン州の農村調査の成果を取りまとめるとともに、新たに福岡県柳川市での調査を開始した。 ドイツ農村調査の成果については、当地での再生可能エネルギー導入に関する試みが、いかに地域コミュニティの連帯強化と結びついているかを、本研究の鍵概念である「複業」という観点から明らかにした。簡潔に内容を要約すれば、再生可能エネルギー事業の収益を、サッカークラブのようなクラブ活動に代表される経済活動以外の様々な地域活動の形成・発展に利用していることが、地域コミュニティを強化するとともに再生可能エネルギー事業に対する住民の社会的受容性を高めることにつながっていることを論じた。 柳川市での調査では、掘割再生活動を通じた、地域コミュニティと市民活動とのネットワーク形成過程について聞き取りを進めている。堀割に対して多様な意味付けをを可能にする努力を通じて、従来であれば掘割にかかわりを持たなかったアクター、例えば高校生や市内外の水とかかわりを持たない企業までもが、定期清掃などの掘割再生活動に参与するようになっている。今後もさらに、こうした動きを「複業」という視点と結びつけながら調査を進める予定である。 最後に、本年度も3月にドイツ農村調査を予定していたが、新型コロナウィルス感染症の影響により実施できなかった。しかしながら、ドイツの事例は本研究にとって非常に重要な論点を含んでいるため継続調査が必要と考えている。今後の情勢を鑑みつつ、次年度以降、追加調査の実施を検討していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、本年度から研究成果の報告を無事開始することができた。また、フィールドでの調査についてもインフォーマントとの関係構築も進み、定期的に実施できている。したがって、次年度以降も研究成果を継続して発表していく準備は整っており、研究はおおむね順調に進展していると評価できる。 しかしながら、昨年度末から新型コロナウィルス感染症の影響が拡大したことで、当初予定していたドイツ調査を断念せざるを得なくなるなど、本研究についても一定の影響を受け始めている。また、海外調査の中止に伴って研究費について未執行分が大きくなってしまった。現状では、今後も長期にわたりコロナウィルスの影響が続き、研究に重大な遅れが発生することも懸念される。 そこで、現在、zoomやSkypeなどのアプリケーションを利用した遠隔調査の実施を検討している。また、研究費については次年度以降に繰り越し、オンライン調査の実施に必要な機材等の準備にあてる予定である。既にその準備は進めており、数名のインフォーマントに対し依頼を行い快諾を得ている。次年度は、こうした新たなツールを活用することで、研究活動を円滑に継続していくことを目指す。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は柳川市での調査の継続及び、その研究成果の取りまとめを進める。また、新たに熊本県あさぎり町での調査を開始する。 本研究はフィールド調査に重きを置いており、研究の遂行にあたっては調査の実施が欠かせない。しかし、新型コロナウィルス感染症の影響が今後も長期的に続くことを見込んで、遠隔での実施を進めることとする。既に柳川市については数名のインフォーマントに依頼を行い快諾を得ている。また、あさぎり町に関してはこれまでも継続して調査活動を実施してきたこともあり、いつでも数名のインフォーマントに協力の依頼が可能である。 なお、新たな調査地としてあさぎり町を選んだ理由は、当地において和綿の栽培活動を通じて地域再生を試みようとする稀有な実践がなされているからである。この活動が、福祉、教育、異業種連携など多様な場を形成することにつながっており、「複業」という観点とも非常に親和的な事例であると思われる。次年度以降、その中核を担うメンバーに対する調査に力を入れていきたい。あさぎり町での調査成果の取りまとめは最終年度となる次々年度に実施する予定である。 柳川市に関する研究成果の取りまとめについては、現代の掘割再生と地域コミュニティや市民団体を巻き込んだネットワークの形成過程との関係について、「複業」という観点から論じる学術論文の発表を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が発生した最大の理由は、3月に予定していたドイツバイエルン州での農村調査が実施できず、予定していた経費(旅費)の執行ができなかったことである。新型コロナウィルスの影響拡大を予想することは困難であり、別の計画等を立てることもできなかった。 次に、今後の使用計画である。次年度使用額については、原則として次年度以降再度ドイツでの農村調査を実施することとし、そのための経費に充てることとする。ドイツ農村の事例は本研究の中で重要な位置を占めるため、可能な限り実行する必要があると判断したためである。しかしながら、新型コロナウィルスの影響が長引けば、当然、海外での調査の実施は困難になると見込まれる。したがって、感染の収束状況をみながら、場合によっては国内での調査等へ研究費を振り替えることする。 なお、調査の実施に際して、現地への移動が困難な場合、オンラインでのインタビューなどの実施も検討する。その場合、旅費等は発生しないものの、調査の実施に必要な様々な機材の購入が必要となると予想される。次年度使用額を活用して、適宜、必要な物品の購入に充てることとする。
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