研究課題/領域番号 |
18K12943
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
石島 健太郎 帝京大学, 文学部, 講師 (70806364)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 障害 / 慢性疾患 / 健常主義 / 病いの語り / 軌跡の方向づけ |
研究実績の概要 |
本研究は障害学に根ざしつつも、障害を社会的構築物と捉え、障害者を治療することによって健常者にする/戻すのではなく、障害者を抑圧する社会的環境の改変を訴える既存の障害学・障害者運動に対して、障害が回復することを願う人々が存在することを踏まえ、そうした健常性への希求をいかに障害学が扱いうるかを検討することを目的としている。 この問題設定を可能とするのが、重度の身体障害・コミュニケーション障害をもたらす難治性希少疾患であるALSという病気の療養を対象とした調査である。この病気の当事者は、病気の患者として治療を望みながらも、障害者としてその身体に折り合いをつけて生きるという両義的な生活をおこなわなくてはならないのだ。 以上の関心のもと、今年度は治り難い慢性疾患を抱えた人々を対象に、その生活における治療への希望の持ち方や未来の予期といった時間感覚、そうした予期に基づいた療養の編成などを扱った医療社会学的研究の文献を広範に読み込んだ。その結果、既存の研究の知見と、自身がこれまで調査の中で得てきたデータを照合したときに、適切な療養編成を導くと従来の研究で指摘されていた未来予期のあり方は一面的であり、むしろ不適切と捉えられてきた希望の持ち方であったとしても、適切な療養編成が可能であるということが示唆された。この議論は8月の国際社会学会(於トロント)で報告された。その後、文献をさらに読み進めるとともに、学会での報告を単著での査読論文としてまとめる作業を進めた。なお、2018年には『障害学研究』に障害介助における介助者の規範がいかに変遷したのかを論じた論文が掲載されているが、こちらは本研究とは異なる研究課題の成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、研究プロジェクトの1年目であり、文献の収集と読解を中心としたため、公刊された成果としては目立ったものは少なかった。ただし、上記の論文の執筆は2019年度5月の時点ですでにおおむね終了しており、近く投稿ができると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、障害当事者の療養をフィールドとして調査を進めるとともに、先進的な治療を担う医師にも調査を行いたい。患者会の活動をボランティアとして支援する中で、そうした医師とのコネクションも形成しつつあるので、参加者のリクルーティングや期間、プラセボの割合、終了後の実薬投与計画といった治験の設計が、いかなる医療倫理的な判断のもとに行われているのか、またそれらと患者との要望がどのような葛藤関係にあるのかといった問いに取り組む。これを通じて、これまで治療を経由しない包摂を主張してきた障害学・障害者運動が、治療を望む障害者や、治療を可能とする技術といかに対峙できるのか、その理論的射程を拡張していくことを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
勤務先の基礎的研究費から優先的に支出したため。2019年度は、2つの国際学会(British Sociological Association Medical Sociology Conference, ALS/MND International Symposium)への参加を予定しており、その旅費に繰越分を当てたい。また、英語での論文投稿もおこなうので、そのための英文校閲費の支出も大きな費目として見込まれる。
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