研究課題/領域番号 |
18K12944
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
仲野 由佳理 日本大学, 文理学部, 研究員 (90764829)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ジェンダー / 犯罪者処遇 / ナラティヴ / 矯正教育 |
研究実績の概要 |
令和2年度は、前年度から継続していた女子刑務所の処遇プログラムとジェンダーに関する質的調査(出所前インタビュー)を実施した。新型コロナウイルス感染拡大に伴い発出された緊急事態宣言等の影響で、調査の実施方法について刑務所側との再協議を余儀なくされたが、感染防止の観点からの工夫を徹底することで、予定していた全てのインタビューを完了することができた。また、出所者の社会復帰支援に関連する領域の支援者(更生保護、福祉、心理、医療)へのインタビュー調査を実施する予定であったが、上記と同じく感染防止および支援現場の状況の沈静化を待つため、一時、調査を中断した。 実査の中断期間には、収集した資料の整理と分析を行う一方で、現在の女子刑務所をめぐる状況や受刑者への人道的配慮の状況について情報収集を実施した。例えば、千葉刑務所等でのクラスター発生を受けて、刑務所内でのグループワークを伴う教育プログラムを一時中断せざるを得ない状況にあったことや、感染防止の観点から運動を含む日常的な活動も一部制限せざるを得ない状況に陥っていることが報告された。これらは「新しい生活様式」への転換期にある社会と刑務所生活の齟齬として生じている問題であり、また再犯防止に寄与する社会復帰支援という点からも新たな課題であることがうかがえた。 成果報告については、研究中断・再開に伴うフィールドとの協議の関係で、学会等での報告には至らなかったが、関連書籍にジェンダーと社会復帰に関する論考を寄稿した。2021年度中に刊行予定である。 加えて、本研究計画の一部である国際比較調査の実現可能性を探るために、米国や北欧などのコロナ禍の刑務所運営や体制について、資料収集、関係者へのリサーチを進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2年度は、(1)日本におけるフェミニズムと非行・犯罪の関連をめぐる歴史的研究の成果報告に加え、(2)刑務所の処遇プログラム観察および受講者インタビューの具体的な分析と成果報告、出所前インタビューの完了を目指した。ところが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、各種学会の開催の有無や開催方法の詳細が確定せず、結果として予定していた学会へのエントリーを行うことができなかった。ジェンダーと社会復帰に関しては、2021年度中に刊行予定の関連書籍に寄稿した。そのほかは研究会等での報告に留まったが、令和3年度は学会あるいは論文等での成果報告を目指したい。また(2)については、新型コロナウイルスの感染状況の見通しを立てることが難しく、司法手続きの元に「出所日」が確定する状況の中、時期を逃さずにいかにしてインタビューを行うかを巡り、刑務所側との協議が難航したことでデータの分析まで作業を進めることができなかった。幸いにも、刑務所側のご厚意のもと、刑務所職員がインタビューを代行するという形式で、全ての調査を終えることができた。以上のような、予定外の連絡調整や打ち合わせ等に時間を要する中、予定していた作業に遅れが出るという事態となったが、令和3年度で遅れを取り戻したい。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、調査データの分析と成果報告を中心に進める予定である。また、国内の支援者へのインタビュー調査であるが、延期したものを含めてオンラインでの実施に切り替えることで予定通り進めていく方針である。とはいえ、更生保護施設や女性支援団体等への訪問やインタビューを予定していたが、感染状況によっては、調査方法を変更して実施することを検討する。一方、この難局において指摘される女性の自殺率の上昇など、「女性支援」の必要性は高まっている。改めて浮き彫りにされた「家族内無償ケア労働」をめぐる問題や、ジェンダー格差、それに対する社会的支援の不足などは、再犯率の上昇に対するリスクとしても重要な要素である。急速に変化する社会情勢を踏まえて、これからの「刑務所処遇」(そこでの女性支援)がどうあるべきかを構想するために、引き続き、「コロナ禍での刑務所処遇」についても情報収集をする予定である。 また、国際比較調査に関しては、上記と同様に、新型コロナウイルスの感染状況によって、方法を再度検討する必要が生じている。基本的には、実施を目指して、関係者との連絡調整を行いながら、状況に応じてオンラインでのインタビュー調査や意見交換等の方法も柔軟に検討する予定だ。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、関係施設や団体への出張がほぼ中止・延期となった。令和3年度は、一部をオンラインに移行して実施予定であり、引き続き、使用機材に関する支出が見込める。また、PCR検査の認知度の上昇に伴い、陰性証明を受けることで実査が可能となる見込みである。そのため、延期していた調査に関する出張・テープ起こし等の支出が必要になると考える。また、国際比較調査の実施を検討する際には、今まで以上に感染防止の観点から必要な諸手続きが生じるものと見込まれる。それら新たな手続きにおいては専門家の指示を仰ぐと同時に、通訳や翻訳など言語的な問題への対処および支出が必要になると思われる。
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