令和5年度は、刑務所内教育プログラムの実施主体である「刑務官」の役割と機能に関する諸外国の研究を収集・整理し、令和4年度までに収集したデータを踏まえて最終的な分析を試みた。調査対象であるA女子刑務所で実施した調査の概要・分析結果は、法務省矯正局成人矯正課とA女子刑務所に対して最終報告書として提出した。加えて、2007年から2008年に実施したB女子刑務所における教育プログラム調査で収集したデータを再分析し、2023年度日本教育社会学会(「刑務所における「対話的な教育」はいかにして可能か―特別改善指導(薬物依存離脱指導)導入期の試行的実践に着目して」)で報告した。 また、教育の実施主体としての「刑務官の役割」を考察するため、刑事司法における刑罰と教育主義の関係についての歴史研究を実施した。「矯正図書館」で1920年代以降の実務家雑誌を中心に資料収集を行い、牧野英一らの「教育刑論」から刑務所における「教育」概念の形成過程について整理した。その成果を日本大学教育学会(「刑務所における「教育」概念の変遷―牧野英一らによる「教育刑論」をめぐる議論からー」)にて報告した。 なお、国際比較調査はコロナ禍の影響で実施が困難となったため、国内での出所者調査(インタビュー調査)へと変更した。出所者支援団体の協力を得て、2名の出所者の「出所直後からの過程」を、自記式のメモの収集及びインタビュー調査でデータを収集した。 期間全体としては、①女子受刑者をめぐる施設内処遇及び社会内処遇の現状に関する文献収集・分析(2023年度学会報告及び最終報告書に論文掲載)、②女子刑務所における教育プログラム調査(2019年度から2021年度実施、2023年度学会報告及び最終報告書に論文掲載)及び③支援者及び出所者調査(2022年度から2023年度実施)の3項目に関する包括的な調査研究の実施・成果報告を行うことができた。
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