本研究の目的は、1960-1970年代の団地に全国的に設立された住民の自主運営による保育施設(「幼児教室」)に着目し、その設立や運営に関する実践および歴史的背景を明らかにすることで、日本における家族機能の外部化に関する社会的連帯についての基礎的視角を導出することである。その調査は、[調査①]1960-70年代の団地に関する調査研究、雑誌記事等の言説分析、[調査②]首都圏3箇所の団地の住民組織の刊行物の言説分析、[調査③]首都圏3箇所の団地の保育施設の関係者への聞き取り調査、の3点から行われる。 2023年度は、調査①②③のデータおよび2022年度の調査を活かし、団地の保育施設に関する分析と、1960-70年代の「家族」や「家庭」を取り巻く言論状況や社会背景について分析した。その結果、団地の保育施設の社会的位置づけだけでなく、類似の運動や、高度経済成長期における家族と民主主義、ジェンダーに関する言論の多様性など、当初より多角的に対象を捉えることができた。具体的には、団地の保育施設と、同時期の自治会活動と革新的な言論との関係、団地にみられるような「近代家族(家庭)」との対抗関係であらわれた保守的言論、ジェンダー観などである。これらは、団地および高度経済成長期の「家族」を取りまく社会背景、言論状況であり、今後の日本型近代家族研究の土台として位置づけられると考えられる。 成果の一部は、2023年度に書籍として刊行した。また得られた成果をもとにした、学会報告、論文執筆を検討している。
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