研究期間全体で得られた成果は以下の通り。 【1】占領期から1970年代までの日本における米軍保養地の形成過程と運営実態の解明。戦後、米軍を主力とする占領軍は、隊員の士気低下や海外駐留生活への不満を防ぐため、日本の観光ホテル、娯楽施設、運動競技場を接収し、軍専用の保養地に作り変えた。既存の占領研究では、ジェンダー研究者を中心に、米軍用の性的慰安施設や日米合作による性政策の実態が明らかにされてきたが、その他の娯楽施設に関する分析は遅れてきた。本研究では、米軍の余暇・娯楽政策に関する内部文書と娯楽提供に関与した日本の観光産業・自治体の資料をもとに、政策意図・事業規模・運営実態を明らかにした。 【2】アジア太平洋地域の米軍基地ネットワークを軸にした越境的な米軍観光の実態解明。占領期に建設された米軍の娯楽・保養施設は、在日米軍兵士やその家族だけでなく、アジア太平洋地域に駐屯する米兵たちの休暇場所としても利用されており、ここに日本の出入国管理を免除された越境的な観光の流れが存在した。特に朝鮮戦争やベトナム戦争期の日本は、戦場の米兵たちが休暇を得て、「休養と回復」を目的に訪れる保養地に指定されており、来日した帰休兵は短期間ながら受入地域に「観光特需」とでも呼べる経済効果をもたらすと同時に、売春・性病・麻薬の蔓延など「観光被害」を残した。 【3】占領終了後も米軍基地内に残された娯楽施設の存続理由の分析。1960-70年代に「不要・遊休施設」として返還要求が高まった米軍ゴルフ場を例に、国会議事録や米上院委員会の審議内容から、日米両政府の正当化の論理を分析した。この論争を通して、①娯楽目的での基地提供の妥当性、②施設整備費の日本政府負担の妥当性、③利用者範囲を日本人に拡大することの妥当性が確認され、ここに確立された正当化の論理が、その後「思いやり予算」導入から現在に至るまでの政府答弁の基調となった。
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