研究課題/領域番号 |
18K12954
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研究機関 | 成蹊大学 |
研究代表者 |
金 善美 成蹊大学, 文学部, 講師 (30803184)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 下町 / 脱工業化 / 再開発 / ジェントリフィケーション / スカイツリー |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、20世紀以降の工業化・都市化とともに発展してきた隅田川以東の下町エリアを舞台に、脱工業化・グローバル化の下で進む東京の都市空間の再編を明らかにするところにある。当該年度の研究実績は、大きく次の二つに分けられる。 第一に、3つの研究対象地のうち、江東区清澄白河および江戸川区小岩に関しては、産業・地域構造変動を把握するための資料収集および分析作業を進めた。ただし、近年の新型コロナウィルス拡散の影響により現地調査の実施が現実的に難しく、データの収集は文献調査を中心とせざるを得ない状況であった。 第二に、もう一つの研究対象地である墨田区押上に関して、昨年度行った現地調査の成果を論文にまとめた。本論文は、東京スカイツリーで代表される巨大商業施設との共存共栄が問われる中、地域商店街の担い手らが迎える危機・転換の局面を実証調査から論じることで、東京インナーシティの社会的・経済的再編過程の一面をとらえたものである。そこでは、先行研究において繰り返し指摘されてきた要因、すなわち、自己雇用や家族経営、低生産性など、日本の零細自営業者層の「前近代性」を地域社会の構築と維持という観点から再検討する必要性や、巨大商業施設対地域商店街という構図では説明しきれない、近代化以降のより長り歴史的・社会的過程の結果としての現在の零細自営業者層の困難があることを指摘した。 これら二つの作業を中心的に行いながら、近代以降、長らくブルーカラーが集住する住工商混在地域としての地域アイデンティティを作り上げてきた隅田川以東の下町エリアが、脱工業化やグローバリゼーションといった都市全体の構造再編の下、それぞれ異なる地域特性を持つ地域に変貌しつつあることを解明中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
進捗状況の遅れは、新型コロナウィルスの拡散によりインタビューなど研究対象地における現地調査の実施が現実的に極めて難しい状況にいるからである。本研究が調査対象とする商店街代表や商工会組織の代表、自営業者、町内会長など地域有志には60代以上の高齢者が多く、オンラインでの調査の実施も容易ではない。
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今後の研究の推進方策 |
近年のコロナ禍によって実施が難しくなった現地調査の代わりに、新聞・雑誌などメディア分析を通じた研究課題の遂行を試みている。具体的には、本研究と関連する複数のキーワードを含む新聞・雑誌の記事の量と内容を時代ごとに分析していくことで、該当地域の「語られ方」すなわち地域イメージがメディアを通じてどのように生産され、また変容されてきたのかを解明する作業となる。この手法は研究者がこれまで主に用いてきた研究方法とは異なるため、メディア分析という研究方法自体の知識と手順について学習しながら研究課題を進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で現地調査の実施がほぼ不可能となり、資料収集や謝金など現地調査に関わる出費が発生しなかった。また、学会などが揃ってオンライン開催となったので、旅費も発生しなった。そのため、結果的に研究費が予想外に余ってしまう事態となった。 次年度の使用計画としては、書籍や自治体等が刊行する統計・郷土史関連資料などの購入が主となる。なお、新型コロナの感染拡大がある程度収束し、現地調査を再開できる見込みが立った場合は、謝金など現地調査に関わる費用として使用する。
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