本研究の目的は、昭和初期の健康住宅を事例に、多様なアクターがどのように自然と向き合い、それを活用し、そしてその影響を受けていたのかを経験的に明らかにし、そこから近代日本における社会と自然の「共生」のかたちを提示することにある。最終年度となる本年度の研究実施状況は以下のとおりである。 (1)昨年度までに実施できなかった旧富士見高原療養所を対象にした現地調査を実施した。旧富士見高原療養所資料館は休館中であったが療養所跡地を訪問した。また、富士見町図書館および富士見町高原のミュージアムにおいて史料調査を行った。 (2)昭和期の結核療養に関連した補充調査を実施した。まず、国会図書館デジタルコレクションを活用し、1940年代から50年代における結核療法および療養環境の変化についての史料調査を行った。また、こうした療養環境を構成する科学技術の一つである板ガラスの製造に関して、現地調査を実施した。 (3)昨年度に出版した著書の内容について、複数の研究会において、口頭発表を行った。 研究期間全体を通じて、専門家や行政、居住者に加えてモノがどのように日光や風などの自然と相互作用していたのかを、主に健康住宅を事例として明らかにしてきた。結核という感染症をとりあげていたこともあり、本研究は新型コロナウイルス感染症をめぐる現在の社会的関心にも一定程度応えるものになった。研究成果は著書や論文、専門誌への寄稿、研究会での口頭発表のかたちで着実に公表してきた。
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