研究課題/領域番号 |
18K12962
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研究機関 | 公益財団法人京都服飾文化研究財団 |
研究代表者 |
小形 道正 公益財団法人京都服飾文化研究財団, KCI学芸課, 研究員 (90778143)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 着物 / 和服 / 社会学 / 戦後日本 / ファッション |
研究実績の概要 |
本研究では戦後日本社会における和服ないし着物の具体的な形象の変化とともに、この変遷が人間と衣服の関係性をめぐる理論的な意味について考えることを目的としている。 本年度は、前者については、まずCreated and Contested: Norms, Traditions, and Values in Contemporary Asian FashionにWhat Is the Newness of the New Kimono?: Postwar Japan in the 1940s and 1950sという英語論文を投稿した。拙稿では1950年代にあらわれた〈新しいキモノ〉と称されたその新しいについて検証した。それは戦前の改良服と類似した試みでありながらも、戦後の女性解放という理想とともに、なかでも新たな化学繊維の興隆によって、人びとに〈新しいキモノ〉として扱われたことを明らかにした。 また、『Fashion Talks...』vol.13にて論文「非日常化する着物と衣服を買うことーー1960年代から1980年代(上)」を発表した。この論文では主に1960年代頃より多くの着物が生活着としての着物ではなく、非日常着としての着物となったこと、またそのなかで女性の生涯の幸福という夢幻が雑誌や広告を通して描かれていたこと、同時に「正しい」着物という規範的な言説が生まれ、着物教室や着付け教室などの教育機関にて実践されたことを明らかにした。 一方、後者については、『広告』に論文「衣服と人間の関係史ーーつくること、買うこと、借りること」を寄稿した。そこでは衣服を論じる諸研究にみられる時間意識を4つに弁別した上で、衣服をとらえる曲線的な時間意識の重要性を論じるとともに、現在人間と衣服の関係性が作ることから買うことへ、そして借りることへと根源的な変貌を遂げていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実証的な着物の変遷については、まず1950年代にみられる「生活着としての着物」については日本語ならび英語の論文にて成果を得ることができた。また1960年代の「盛装・正装としての着物」についても論文として発表することができた。そして理論的な衣服と人間の関係性についての側面について、すなわち、作ること・買うこと・借りることについては、こちらもまだまだ十分に思索を深める余地があるものの、日本語と英語の論文としてかたちにすることがかなった。ただし、本年度もcovid-19の影響が大きく続いており、今後さらに必要とする研究の調査・分析・執筆が十分に実施することができなかったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は2つの方向性からアプローチを試みている。今後の研究については、まずはとくに次の区分であるバブル期における和服の形象について析出を試みたい。当時の新聞記事や雑誌記事、ならびに繊維関係の統計資料について国立国会図書館をはじめとする機関にて渉猟しつつ、論文化できるよう努めたい。またそれを踏まえて高度経済成長期からバブル期頃までにみられる人間と衣服の理論的な関係性、すなわち買うことにおける意味について明らかにしたい。そして、この本研究の全体像となりうる人間と衣服の関係性をめぐる重要な理論的課題については、より精度を高めていくために、社会学や哲学、美学等の理論的著作を精読しつつ関連性を引き続き探っていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
以前より続くcovid-19の影響で予定していた調査のための出張を見送るかたちとなった。翌年度の研究課題に関わる旅費ないし書籍購入にあてるとともに、論文の翻訳や報告書の作成などにて使用する計画である。
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