埼玉県において社会事業は、社会のありようである制度の成立や施設の開設によってのみ形成されたのではなく、法律や制度によって開始された社会福祉実践活動と、その実践にも影響をうける住民の生活とが相互に影響を与え合って形成されてきたものであることを示すことが出来た。このことは、生活という視点から埼玉県の社会事業形成過程を説明する際の特質であると考える。 埼玉県における社会事業の形成過程を検討した本研究の成果は、以下の7点である。 ①社会事業形成を論じる際に「生活」に視点をおき、法律や制度の成立、施設・団体の開設という面だけでなく、その法律や制度がどのように展開し、施設・団体の具体的実践がいかに行われ、人々の生活に影響を与えたのかという観点から社会事業の形成を検討する視点を示したこと。②その結果、埼玉県の社会事業形成期は通説である大正中期とは異なり1931(昭和6)年頃であることを論じたこと。③埼玉県における社会事業形成の契機となった福利委員から埼玉県方面委員制度の転換が非連続であったことを論証したこと。④社会事業形成の背景は、国家による強制のみではなく地域における実践活動の積み重ねや地域の意向があったことを解明したこと。⑤当時の被救済者の生活実態を埼玉共済会福利委員による支援記録からKH-Coderを使用して検討し明らかにしたこと。⑥埼玉県における社会事業の形成の背景には官民の役割の分離があったこと。⑦社会事業の形成過程において、旧来の地域の仕組みを近代化し組み込もうとする営みがあったこと。 これらの成果には従来の日本における社会事業の形成の特徴とされてきた内容と重なる部分も異なる部分もあり、社会事業形成過程には地域性があることが確認された。地域を限定した社会福祉の歴史研究が社会福祉の全体史に貢献する可能性の高さが示された。
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