本研究は、「earner-carerモデル」の理論的枠組みから関連政策の妥当性および実効性を評価するための手法を検討するものである。最終年度に当たる令和4年度は、以下の3点の成果をまとめるとともに、残された課題を整理した。第1に、日本におけるジェンダー視点に基づいた政策評価研究の現状を、文献調査を通して明らかにした。社会政策のジェンダー分析においては実態分析や制度分析が中心であり、政策を評価するという視点が弱い。そのため政策評価論の方法論を分析に援用することで研究の発展が期待できることを提唱した。第2に、日本の政策評価の現状を捉えた上で、男女共同参画局によるジェンダー政策について政策評価論の枠組みを用いた実証分析を行った。日本では2001年の政策評価法制定以降、総務省を中心とした政策評価が実施されているが、内部評価が主であることや、「○○を行った」という業績評価の域を出ていないといった課題が挙げられる。ジェンダー政策においても、特に男性のケア役割の遂行に関して実態や政策効果を十分に捉えられる評価指標が設けられていないなどの課題があることを示した。第3に、少子化社会対策を対象とした政策評価論からの実証分析である。重点施策として示されている内容が総花的で政策目的が不明瞭であること、政策を評価するためのアウトプット、アウトカム指標の整合性が低いといった課題が明らかになった。以上から、男女共同参画、少子化対策など縦割りを超えて「earner-carerモデル」を達成するための政策パッケージとして明らかにすること、それらの目標と進捗を検証できる適切な評価指標を設定していく必要があることが明らかになった。こうした課題には政策評価論のロジックモデルを用いることが有益であるが、実際にこれらの政策の新たなロジックモデルを構築するところまでは至らなかったため、今後の課題とする。
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