本研究は、日本国内において言語的に弱い立場におかれてしまう人々の情報保障およびコミュニケーション支援の社会的普及と拡大に、学術的に資するものである。とくに情報のバリアが大きくなりやすい知的障害者の情報保障に焦点をあてて、以下の3つの小課題と派生課題を追究した。小課題1:知的障害者への「わかりやすい」情報保障と「意思決定支援」との関連の追究、小課題2:言語的弱者の情報保障の共通性および連携可能性の質的検討、小課題3:「わかりやすい」日本語による情報保障の社会的普及のための理論構築と社会福祉学の諸分野への提言、派生課題:知的障害者と医療に関する情報保障に関する検討。
2021年度は延長年度であり、2020年度までに完了できていなかった小課題のまとめや総括を行った。まず小課題1に関して、2018~2019年度に行ってきた調査について分析を進め、その一部を論考としてまとめた。また、小課題3に関する総括に代えて書籍に短報を寄稿した。これらの成果は2022年度以降の公表を予定している。
本研究期間全体を通し、知的障害者の意思形成時に「わかりやすい」情報提供が肝要であること、また医療など障害当事者のその後の生活を大きく左右するような情報にはとくに当事者の感覚や時系列に沿った平易な表現が必要であることを、質的調査および文献研究より明らかにした。また、知的障害者向けの「わかりやすい」情報提供は、彼らの権利として、そして「合理的配慮」の提供として進める必要があることを理論化した。さらに、知的障害者向けに作成された「わかりやすい」情報が、手話を第一言語とする人々(ろう者等)や、日本語以外を第一言語とする人々(外国人等)にとって読みやすく利用しやすい情報媒体となりうる可能性を質的調査より示し、今後の「やさしい日本語」研究との連携可能性を拓いた。
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