研究課題/領域番号 |
18K13008
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
崔 仙姫 明治学院大学, 社会学部, 研究員 (70809029)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | コミュニティケア / エイジングインコミュニティ / 高齢者ケア / 国際比較 / アジア研究 / Community Care / Ageing in Care |
研究実績の概要 |
アジア諸国における高齢化とその対応として本研究では,「ageing in community」を提案した。本研究では,①コミュニティにおける高齢者ケアを体系化・実現化している先進国としてのイギリスのコミュニティケア理論をもとに,日本・韓国・シンガポール・香港を対象に,高齢者への「サービス保障(主に介護)」について「ageing in community」の観点から,その現状と課題を明らかにし,②互いの経験を学び合いつつ,日本が他のアジア諸国と協力して,アジア及び世界の高齢社会へ発信できる施策を検討したい。具体的には,各国におけるコミュニティの機能の強化方案について,コミュニティの長点を生かし,ageing in placeを実現しているシンガポールの事例を参照する。さらに,③そこから得られた知見をベースにして,日本がageing in placeを理論的に体系化し,実践的・理論的基盤を構築するための政策提言も,本研究の目標とした。 2018年度の当初の研究計画は,1)イギリスを中心としたageing in community,community careの理論的検討と2)シンガポールを中心とした高齢者ケア関連資料収集や現状分析であった。2018年度には6か月間研究を実施し,この研究の基礎となる1)の作業を実施し、実績を出た。 具体的には,コミュニティと長期ケアの改革は,世界において重要なテーマとなってきているにもかかわらず,コミュニティの概念の定義は多様であるため,コミュニティと関連した政策の実施において混乱も生じていることから、コミュニティと関連する用語の概念を明確にする作業を行った。これらの点を踏まえ,イギリスを中心としたcommunity , ageing in community,community care など関連のある用語を整理する理論的検討を先に実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,アジア諸国における高齢者ケアをこれまでの日・韓比較研究から得られた「制度の持続可能性」ということに焦点を当てて,日韓だけでなく,アジアの多国家分析を行う。その際に,コミュニティを次善の策として取らず,高齢者ケアにおいてコミュニティが核心的な担い手となる方法を探る。そのために,イギリスの理論を参照し,制度の持続可能性の問題をageing in communityの視点に着目するこのアプローチは,日本国内外で主流を占める既存の研究から一線を画しており,その意味で,今後の高齢者ケア研究の方向性に対して一定の影響を与えることができるものと予想される。この点が,高齢者ケア研究の分野における本研究の学術的な特色および独創的な点である。また,先行国と東アジアの諸国とのあいだの比較だけでなく,東南アジア域内の多様性をも探る。 これらの点を明らかにする本研究の基礎となる作業を過去6か月間行った。ただし,本研究は,2018年度から2021年度に実施される予定であったが,出産・育児のため2018年度9月から2019年度3月まで研究を延期している。そのため,初年度から6か月間研究を実施しており,最初の6か月間の計画通り進行されている。 本研究の課題は,コミュニティと関連する用語の概念を明確にする。コミュニティケアの概念は多様な国で多様な用語で使われており,同様の用語でもその意味が合致しない場合が多い。しかしながら,コミュニティケアは日本,韓国のみならず今後アジア諸国において高齢者問題を解決する一つの重要なキーとなることを鑑み,共通の概念を正立させる必要がある。これらの点を踏まえ,本研究では,コミュニティ,コミュニティケアなどの用語の概念を明確に整理した。 上記の作業を進行しつつ,次のステップである4か国における諸高齢者ケア政策・制度を2次データを用い,統計的に検証する作業を準備している。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度から研究を再開する予定である。当初の計画通り,ageing in community,community careの理論的検討をまとめ,シンガポールの高齢者ケア関連資料収集や現状分析を行う予定である。その以降は,以下のスケジュールで研究を進めていく。 2021年度には、1)シンガポールと香港の現状分析の持続と日韓の関連資料の現状分析,2)国内・外の学会・研究会での中間報告及び論文執筆,2)ageing in communityの理論的成果に関する中間的取りまとめ,2022年度には,1)シンガポールと香港の現状分析の継続と日韓の関連資料の補完,2)国内・外の学会・研究会での中間報告及び論文執筆,2023年度には,分析のまとめ,補足調査の実施,報告書の刊行とその成果を普及する。
本研究の特性上,国内外からの研究者の協力を仰ぐ必要がある。シンガポールと香港に関しては,Thang Leng Leng 氏、Vasoo, Sushilan.氏(シンガポール大学),そして韓国に関しては,Chon Yongho氏(仁川大学),Woo Kughee氏(ソウルキリスト大学)とSeok Jaeun氏(韓林大学),これまで本人がすでに研究交流をしてきた各国の研究者から,常時,協力してもらえることになっている。なお,東アジアの社会保障・福祉に関して先駆的に研究を進めてきた武川正吾氏(東京大学),野口定久氏(日本福祉大学),和気純子氏(首都大学東京),金成垣氏(東京大学)に助言を請う。また,イギリスのHudson John 氏(University of York), Clarke Charlotte 氏(University of Edinburgh)に協力を得る。さらに,現場の検証のために各国の現場の実践家に協助を得て,調査研究を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は,2018年度から2021年度に実施される予定であったが,出産・育児のため2018年10月から2020年3月まで研究を中断している。そのため,初年度から6か月間研究を実施しており,主に理論研究を実施したため,ネットや既存の資料でできる作業を先に行った。最初の6か月間の計画通り進行されている。しかし,主に理論研究を実施した最初の6か月とは異なり,今後の研究の実施においては,計画通り支出する必要があり,2018年度分であった研究費は全て支出する計画である。
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