研究課題/領域番号 |
18K13020
|
研究機関 | 東北生活文化大学 |
研究代表者 |
八巻 美智子 東北生活文化大学, 家政学部, 講師 (50382677)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 味覚 / 苦味受容体(TAS2R) / 遺伝子多型 |
研究実績の概要 |
先行研究においてこれまでTAS2R19やTAS2R31の変異がキニーネに対する苦味感受性やグレープフルーツに対する嗜好に影響している(Hayes et al.2011, 2015)といった報告がなされているが、いずれも欧米人等の調査研究である。本研究では日本人の苦味感受性と遺伝子多型との関連性を明らかにするため普段の食生活の中で影響があると考えられる人工的ではない天然の苦味物質に着目しこれらの官能評価試験と遺伝子多型解析、食生活のアンケート調査を実施した。 先ず、一般的な人工苦味物質フェニルチオカルバミド(PTC)等で苦味官能評価試験を実施しこれまでの先行研究と同様な結果が得られることを確認した。(苦味強度の平均値はAVI/AVIで約9、AVI/PAVで約52、PAV/PAV約60で有意差有<0.01) 遺伝子多型解析は変異の機能が最もよく知られているTAS2R38と広いリガンド特定を持つと言われているTAS2R46をターゲットとして解析した。TAS2R38はPTC 非感受性型のAVI/AVI、PTC感受性型のPAV/PAV、中間の値を示すAVI/PAVの3つの遺伝子多型に分類された。日本人ではこの苦味感受性が低いアレル(AVI)は約 42%、苦味感受性が高いアレル(PAV)は約58%であり(東北メディカル・メガバンク機構データベース)苦味感受性の高いPAVアレルを保持しているタイプが 多いことが判明しているが、本研究からも同様の結果が得られた。 アブラナ科野菜や苦味物質を含む食品を用いて苦味の官能評価試験を同様の被験者で実施した。欧米人らを対象とした先行研究のアブラナ科野菜の苦味強度は AVI/AVIが低感度を示すとされているが、本研究結果からは遺伝子多型による違いは確認されなかった。欧米人とは異なる日本人ならではの苦味感受性を示すことが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
味官能評価試験や遺伝子サンプリングは約90人の被験者で実施した。(ヒトを対象とした実験のため、 あらかじめ、東北生活文化大学倫理委員会に研究の許可を得て実施した)計画より若干被検者人数が少ないが、アンケート調査のみ参加の被験者は100名を超えている。 ターゲットとした苦味受容体TAS2R38とTAS2R46の解析は一部を除いてすでに終了し、それぞれのTAS2Rs遺伝子型の集団における頻度を集計した。また、得られた結果は一般的に広く知られているこれまでの研究結果を支持しており研究方法等についても問題ないため、今後もこの方法で研究を進めることができると考えている。そのためほぼ予定通りに計画が進んでいると言ってよい。 今のところ、遺伝子解析と食嗜好アンケート調査との相関の解析をSPSS(IBM SPSS Statistics Base Advanced Statistics)を用いて実施している。TAS2Rの多型は生活習慣病との関連についても研究がなされており、(Dotson et al.2008; Padiglia et al.2010; Dotson et al. 2012; Kller et al. 2013)我々の研究では消化器系癌とTAS2R38の関係について、AVI/AVI型の被験者の癌発症リスクが高く、反対にPAV/PAV型の被験者の癌発症リスクが低いことを示した (Yamaki et al. 2017)。その為、なぜこのような遺伝子型で違いが生じるのか、癌患者と健常者との食習慣や健常者の味官能評価試験を実施することにより、苦味感受性の個人差や食習慣の違いからその謎を解明し、テーラーメイド栄養指導が可能になることを提言していきたい。
|
今後の研究の推進方策 |
①味官能評価試験、アンケート調査、遺伝子多型解析:今年度も引き続き被験者を集め実施する。研究内容等について広く公表しこれまで以上の被検者に参加して頂けるよう努める。被検者は学生のみであったが、附属のますみ保育園や幼稚園などの施設とも連携することで、低年齢の被験者を対象とし幼児の味覚や食嗜好性による好き嫌い軽減のメカニズムを遺伝子型からアプローチすることが可能になるため、関係機関の協力を得て実施できるようにする。また、遺伝子多型解析は効率の良い方法を採用し時間短縮を実現する。 ②他のTAS2Rの解析;これまで解析しているTAS2R38とTAS2R46に加えて他のTAS2Rにいても解析を実施する。条件検討などのため多少時間を要するが、最新の研究結果なども踏まえ遺伝的変異が機能していると予想されるTAS2Rについて研究を進める。特に今回得られたアブラナ科野菜の苦味感受性の結果についてその理由を解明できるように努めたい。 ③アンケート調査との関連性の解析;統計検定について様々な検定を実施する。また、研究内容に相応しい統計検定について研究会や研修会等に参加し情報収集し知識を修得する。健康食と言われている日本食は他の料理と比べると苦味を含む食品が使用されている場合もあり、日本人特有の苦味感受性があることも推定されるため新しい発見も期待できる。アブラナ科野菜は勿論の事、苦味を含む食品で苦味感受性の評価を行う事により味覚の面から日本人のルーツを探るきっかけともなる。以上より、苦味感受性、食習慣、遺伝子多型の調査結果を総合的に組み合わせることで、日本人ならではの新しい研究成果が得られることが期待される。 ④得られた研究成果をまとめて学会等で発表する。3年目に向けて論文化できるよう得られた結果について研究者等とディスカッションし研究成果公表に向けて準備を調える。
|
次年度使用額が生じた理由 |
遺伝子解析や研究倫理申請等の関係で関係機関との体制構築が必要であったり、幅広い被験者を募集することが難しかったため、一部実施できなかった内容があり1/3程度を次年度に繰り越したが、今後は関係機関とも連携を図っていく予定である。また、実験機器類はほぼ予定通り購入できたが、一部の機器の製造関係で次年度に繰り越したものの早い時期に揃っているので、今後は順調に進めることができる。2年目以降は被検者の低年齢化を実施し幼少期の嗜好性(好き嫌い)などと遺伝子多型との関連性の研究も進められるか否かを検討している。研究機関等の協力などが得られれば対応したい。
|