本研究は、「食肉のコク」を表す科学的な指標を提案することを目的とする。そこで、食肉の「コク」を評価するためのモデルとして「鶏肉エキス」、これに「コク」を付与することが期待される材料として「油脂」を選択した。 前年度までの成果として、鶏肉エキスにおける動物性油脂Aの弁別閾値を解明するとともに、訓練されたパネルによる言葉出しにより、鶏肉エキスを表現する8種類の用語を選択した。 本年度は、食品の「コク」を構成する因子の一つとされている「複雑さ」を客観的に算出する方法の開発を試みた。まず、鶏肉を純水で加熱抽出してエキスを調製し、これに油脂Aを添加して超音波ホモジナイザーを用いて乳化した。油脂Aの添加量は弁別閾値、弁別閾値の1/3倍量および弁別閾値の3倍量の3段階とし、油脂A無添加の鶏肉エキスを含め、合計4種類の試料を調製した。これらの試料について、前述の8用語を用いて経時的優位感覚法(TDS法:Temporal Dominance of Sensations)による評価を訓練された分析型パネルにより実施した。結果として、TDS法により得られたデータから「複雑さ」を表現するパラメータの候補を複数開発するとともに、油脂Aの添加により鶏肉エキスにおいて、前述した「複雑さ」を表現するパラメータが有意に増加することを明らかにした。よって、本研究により「コク」の構成因子の一つとされている「複雑さ」を定量的に計算する方法が新たに開発され、「食肉のコク」を科学的に評価する指標の一つとして提案することができた。
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