研究課題/領域番号 |
18K13036
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
吉田 潤 岩手医科大学, 教養教育センター, 助教 (20611007)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Falcarindiol / 機能性物質 / GSK-3β / インスリン / 糖新生 / セリ科植物 / ウコギ科植物 / ポリアセチレン化合物 |
研究実績の概要 |
本研究はカルシウム感受性の遺伝子変異酵母株YNS17の生育回復活性を指標とする新規な薬剤スクリーニング技術を用いて得られた食材由来の生物活性物質の新たな機能性に関する研究である。特に、セリ科やウコギ科の山菜に含まれるポリアセチレン化合物falcarindiolの糖代謝改善効果に関わる機能性の作用機序を明らかにすることを目的とした。 初年度は、糖新生酵素の調節因子と栄養応答シグナル経路に対する作用の解析、及びウコギ科山菜抽出物の生物活性を評価した。これまでに、ラット肝臓由来細胞株においてfalcarindiolの作用で栄養応答シグナル経路が活性化されることが示唆されている。そこで、ウエスタンブロット法でmTORシグナル経路のタンパク質群のリン酸化を解析した結果、falcarindiol処理によりリン酸化されるmTORC調節因子が認められた。また、インスリンシグナル経路の下流で制御される転写因子のリン酸化とタンパク質発現量を解析した結果、FoxO1タンパク質量の減少が示唆された。これらの現象がfalcarindiolの糖新生抑制作用と関連する可能性が高いため継続して解析する予定である。 次に、ウコギ科山菜の食用部及び成長体の抗2型糖尿病効果に関わる生物活性を評価した。岩手県の森林よりウドやタラノキなど6種のウコギ科山菜を春季と夏季に採集し、メタノール抽出して遺伝子変異酵母株YNS17に対する生育回復活性を検討した。活性評価したメタノール抽出物のうちウドとヤマウコギに顕著な生育回復活性が認められ、いずれも夏季に採集した天然資源でも活性が認められた。これらの結果から食用時期を過ぎたウコギ科山菜の葉を食品機能性素材や薬用植物資源として有効利用できる可能性が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究計画としてあげていたfalcarindiolの糖新生酵素の調節因子及び栄養応答シグナル経路に対する作用機序の解析については、ラット肝臓由来細胞株H4IIEを用いて詳細に解析できた。当初の予想と反して、falcarindiolはインスリンシグナル伝達経路の下流の転写因子のリン酸化の亢進における明確な影響はみられなかったが、タンパク質発現量に影響している可能性が得られた。今後はFoxO1とタンパク質分解経路に関わる作用機序を詳細に検討する必要がある。ラット肝臓由来細胞株に対する作用の詳細が明らかになったことから次にヒト肝臓由来細胞株に対する作用を解析し、ラット細胞における応答と比較検討する予定である。また、岩手県の森林より6種のウコギ科山菜を採集し、メタノール抽出して遺伝子変異酵母株YNS17に対する生育回復活性評価を実施できた。春季に得られる食用部だけでなく、夏季に採集する成長体にも生育円活性が認められたことから、falcarindiolの大量精製法の確立の可能性が得られた。栄養応答シグナル経路とGSK-3β阻害活性との関連性については重要な知見が得られる可能性がある今後の検討課題である。
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今後の研究の推進方策 |
ラット肝臓由来細胞においてfalcarindiol作用によりインスリンシグナル伝達の下流分子と各種転写因子の応答についての知見が得られたが、ヒト肝細胞に対する影響はあまり明らかになっていない。また、ウコギ科山菜におけるポリアセチレン化合物の活性をfalcarindiolと比較検討する必要がある。さらに、falcarindiolの構造類縁体であるfalcarinolでも同様の作用を示すかどうか検討する予定である。今後は、falcarindiolのヒト細胞GSK-3β阻害活性を明らかにするため、ヒト胎児腎細胞株HEK293のGSK-3βの恒常的活性化株を作成し、グリコーゲンシンターゼのリン酸化とβ-cateninのタンパク質発現量をウエスタンブロット法で解析する。グリコーゲンシンターゼのリン酸化の抑制、またはβ-catenin量の増加が認められた場合、ファルカリンジオールはGSK-3βをリン酸化による間接的な不活性化ではなく、直接的に阻害していることが明らかになる。GSK-3β阻害剤は肝臓におけるグリコーゲン合成を促進して中性脂肪合成を抑制するため、ポリアセチレン化合物のヒト肝細胞HepG2におけるグリコーゲンと中性脂肪合成抑制作用を評価する。さらに、メタボリックシンドロームDNAマイクロアレイ試験にて、遺伝子発現プロファイリングからfalcarindiolの糖尿病や肥満に対する機能性を明らかにする。falcarindiol処理したHepG2細胞におけるメタボリックシンドローム関連遺伝子の発現変化をDNAマイクロアレイにて網羅的に解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
Falcarindiolより高活性なポリアセチレン化合物の有無を検討するために、セリ科植物やウコギ科植物からfalcarindiolの構造類縁体を単離精製して生物活性試験に用いる予定だが、単離精製途中であるために次年度使用額が生じた。また、ヒト肝細胞試験の実験中であるが、解析実験を引き続き次年度に行うことから次年度使用額が生じた。 乾燥したウドやヤマウコギをメタノールまたはヘキサン抽出し、カラムクロマトグラフィーとHPLCにて単離精製し、MSによる質量分析とNMRのスペクトル解析にて構造を確認する。この際に使用するHPLC分析カラムとHPLC分取カラムを購入する。また、セイタカアワダチソウやブタクサ抽出物をヒト組換えGSK-3βと合成ペプチド基質の酵素反応に加え、産生ADPをADP-Glo Kinase Assayで検出して酵素阻害活性を測定する。活性があれば、活性物質を単離精製する。さらに、ファルカリンジオール類を作用させたHepG2細胞の細胞溶解液を調製し、グリコーゲンアッセイキットとリピットアッセイキットを用いて細胞内のグリコーゲンと脂肪球を定量する。
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