本研究課題は、高濃度カルシウムイオンを含む培地で培養すると生育不全になる遺伝子変異酵母株に対して生育回復を誘導する低分子化合物を食材から探索し、新たな生物活性と健康有益性を明らかにする研究である。特に、セリ科とウコギ科の食材に含まれるポリアセチレン化合物の糖代謝改善効果に関わる作用機序の解明を目指した。 肝糖新生の調節因子群に対するfalcarindiolの作用を肝臓がん由来細胞株H4IIEを用いて解析した結果、falcarindiol 処理によりリン酸化不活性型のGSK-3βの増加が認められ、その下流に位置するフォークヘッド型転写因子FOXOファミリーの一部にタンパク質発現量が減少する傾向が認められた。また、栄養応答シグナル経路に対する作用を解析した結果、falcarindiol 処理によりリン酸化活性化されるAMPキナーゼとmTOR調節因子が認められたことから、真核細胞のエネルギーセンサー系やタンパク質合成系/オートファジーに関わる経路にも作用が及ぶことが示唆された。 ポリアセチレン化合物構造類縁体の抗糖尿病効果に関わる生物活性が未解析であったことから、山菜として食用されている各種ウコギ科植物の可食部及び成長体に含まれるポリアセチレン化合物の生物活性を検討した。その結果、同程度の濃度で肝細胞の糖新生を抑制する構造類縁体を見出した。これらの結果から、食材ポリアセチレン化合物を豊富に含有するセリ科やウコギ科植物を食品機能性素材や薬用植物資源として有効利用できる地域資源に繋がることが期待される。
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