研究課題/領域番号 |
18K13039
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研究機関 | 嵯峨美術大学 |
研究代表者 |
上田 香 嵯峨美術大学, 芸術学部, 准教授 (50510583)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 丹後縮緬 / 絹織物 / 光学分析 / 着物 / 絹 / 歴史的変遷 / 織物 / 丹後 |
研究実績の概要 |
「丹後縮緬(ちりめん)」は、江戸時代から約300年に渡って織り続けられ、現在も和装白生地の約70%を占める日本独自の絹織物である。しかしながら、白生地(着物のキャンバス地)であるため、 古い縮緬は殆ど残存していない。また、先行研究は少なく、特に技術面に重点をおいた研究は殆ど見当たらない。 本研究は(ⅰ)残存する初期の手織り丹後縮緬を、最新の立体光学機器を用いて非破壊分析し、(ⅱ)その結果を踏まえ復元し(ⅲ)破壊を伴う風合い、吸水性等の詳細分析を実施し、(ⅳ)現存 の機械織り丹後縮緬との比較検証により、丹後縮緬の歴史的変遷を明らかにするものである。研究1年目は、京都工芸繊維大学工芸資料館所蔵の古裂帖(江戸後期から明治中期まで)、千總研究所所蔵の古裂および着物(江戸後期から大正時代まで)を非破壊検査により、調査した。その結果、特に幕末から明治初期に多く見られる「江戸縮緬」が古い丹後縮緬の特徴を最も反映していると考察されることから、今後その復元、分析を行っていくこととした。現在、破壊検査のできる生地を入手、京都府織物・機械金属振興センターの協力を得て破壊分析を行っている。 研究1年目の実績は中間報告として、以下に発表した。 1.『江戸後期から明治初期の絞り染め : 江戸の浮世絵,京の古裂』意匠学会大会、同志社大学(口頭発表)。2.『江戸後期から明治中期の縮緬生地の光学分析』嵯峨美術大学紀要(論文発表)。3.『制作報告 丹後縮緬と金彩友禅を融合した生地の開発 : HOMO ORANS prayer in modern life/現代の祈りのかたち』嵯峨美術大学紀要(研究報告)。4.『HOMO ORANS prayer in modern life/現代の祈りのかたち』嵯峨美術大学・堀川御池ギヤラリー(研究展示)。5.『丹後縮緬と金彩友禅を融合した生地の開発』同志社大学(研究展示)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、丹後縮緬生産に関わる原料(絹)、機材(織機、撚糸機、その他)、技法(織り組織)等の歴史的変遷を調査・研究し、現存する歴史的サンプルと照らし合わせて、古い丹後縮緬の復元を目指している。1年目の本年は、文献調査および古裂の非破壊検査を集中的に実施した。その結果、本研究で復元対象とする縮緬生地を、江戸末期から明治初期に「江戸縮緬」と称され多く生産されていた、独特の薄さと透け感のある生地とするのが適切との結論に達した。 江戸縮緬に用いられている絹は、現在日本で多く生産されているよりも細い(現在は3デニール程度の太さが一般的であるが、古くは2デニール程度であった)糸が使用されている。この絹糸を産出する蚕に近いのは「小石丸」として現在も皇室で育てられている蚕で、一般にも購入可能であることが明らかとなった。 また、縮緬生地の生産工程で重要な精錬技術が現在ほど完全ではないため、古い縮緬生地には膠成分(セリシン)が現在よりも多く残存しており、独特のハリ感を生んでいる(現在、どの程度のセリシンがどの様な状態で生地に残存しているかを分析中である)。 更に、織機については機屋の協力を得られる目処がついており、緯糸に使う強撚糸には、古くから実施されている水撚りの技法が八丁撚糸機を使って検証可能である(古裂から当時の撚り具合が分析可能である)。 当初の想定に比べて、古裂の調査・分析に時間を要したが、その過程で、多くの関連企業を視察し、産学連携事業等も実施してきたことから、丹後縮緬産地との連携が深まり、古い丹後縮緬の復元への多くの理解と協力を取り付けたことは、次年度以降の研究に必要不可欠であったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
古い「丹後縮緬(ちりめん)」の復元と現在の丹後縮緬との比較研究の意義を、「日本文化の象徴である着物の素材として、独自の発展を遂げてきた丹後縮緬には、新たな可能性が詰まっており、絹素材、織り組織、織機等の技術的変遷を研究する意義は大きいと思量する」と研究計画調書に記述した。 1年目の京都工芸繊維大学工芸資料館所蔵の古裂帖、千總研究所所蔵の古裂および着物調査において、縮緬生地の歴史的変遷には、絹素材、織機、流行等の多くの要素が密接に関連しており、各々の要素の総合的な変化の結果として現在の丹後縮緬があり、古い丹後縮緬が作られなくなった理由が、現在製造されている丹後縮緬が決して優れているからだけでない事実が明らかとなった。具体的には、織機の機械化(工業化)が絹素材の変化を来たし、反物の重さが価格と連動していたことが生地の厚さをもたらし、それらの変遷が予測以上に着物のシルエットの変化等の流行に密接に関与していることが判明した。 繰り返しになるが、古い丹後縮緬が作られなくなった理由が、現在製造されている丹後縮緬が決して優れているからだけでないため、ソフトで透け感のある古い丹後縮緬は、将来の丹後縮緬の新展開につながると言える。 従って、当初の目論見以上に、古い丹後縮緬の復元と現在の丹後縮緬の比較検討の意義は大きいと確信する。 2年目の今年度は、本格的に古い丹後縮緬の復元に取り掛かり、次年度の復元した生地についての検証につなげたいと考える。現在は殆ど生産されていない絹素材(繭)の確保等の難関が控えているが、材料の準備、制作設備等の目処は立っており、研究は概ね順調に推移していると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
大きな使用額変更はないが、旅費の使い先を丹後地域から、古裂の流通を考慮し、海外への渡航へ変更した。また、今年度は従来通り、復元に関わる支出を予定しており、予定通りに支出を行う予定である。
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